新田開発
厚東はしばらく無言になる。そしてやおら口を開いたかと思うと、
「でも、ものは考えようや。こんなチャンスはもう2度とあらへん。卑弥呼の血筋やで。次にお目にかかれるのは100年先か200年先か。彼女がおれば物部一族は2000年続く一族になる、日本一や。そんなチャンスを目前にして、この大事なタイミングでささいなことでこの石下神社の名前を表に出すのはアホや。小嶋君のことはしゃーないけど、わいがいれば彼女を物部家に引き入れられるで」
「彼女は養子の件はもう断ってきているが」
「はぁ?何言ってるんや?彼女がおれば、わいらが古来から代々伝わる日本の正当な真の支配者やという証になるんやで」
「本気でそんなこと、言っておるのかね?」
「もちろん本気や。こっちにはDNA鑑定書があるんや。100%科学的裏付けや。東京の皇居でふんぞり返っているやつらが偽物やって暴いたるで。何が皇紀2600年や。やつらは平安時代に物部の家系に背乗りして1000年だけ過ごしたに過ぎへん。前半の1600年はわいら一族の歴史や」
すると神主は嫌そうに手を振りながら、
「そーいうことを聞いておるのではない。真の支配者ならば、国家の安定を最優先するのではないかと聞いておるのだ」
厚東は一瞬フリーズし、理解できていないようだ。
神主は続ける。
「君はなぜ、平安時代に京都が都になったか、知っておるか?」
厚東は無反応のまま。
「世間では飛鳥時代、奈良時代は悠久のロマンあふれる時代と思われてるが、実際は血で血を争う殺戮の時代じゃったんじゃ。卑弥呼から聖徳太子まで続く我が物部家の本家は、中臣鎌足を祖とする藤原氏と秦氏の連合軍との争いで滅び、かろうじて生き延びた末家が奈良時代に再び勢力を拡大した。それが長屋王じゃ。だが長屋王は殺された。ここまでは君も知っておるじゃろう」
「ああ」
「長屋王殺害の報復として、物部分家は奈良の都に対しての物流停止に出たんじゃ。当時から水銀利権、物流つまり経済は物部家が仕切ってたからじゃ」
「確か天災が続いたと、どこかで読んだ気がするが」
「古事記も日本書紀も後の世に秦・藤原連合により書かれたものじゃから、自分たちの弱さを連想させるようなことは記載されておらんよ。全部彼らの都合の良いように、彼らの正当性を示すように事実をねじ曲げられておるからな。でもそんなことは問題じゃない。肝心なことは我々物部一族と秦・藤原連合、つまり今の天皇家は協定を結んだということなんじゃ。物部一族の物流停止により奈良を中心に飢饉が発生し、このままでは共倒れになりそうな状態になったからじゃ。協定の結果、我々は水銀利権と物流利権を独占する一方、秦・藤原連合は山城の地、今の京都に立ち退く代わりに新田開発の利権は自由にして良い、つまりコメという年貢を独占してよいという内容じゃ」




