草www
馬渡は自宅のアパートで布団の中で寝ていた。今日は大学の授業がないから始業時間を気にせずいつまでも布団に潜っていられる。カーテンの隙間から朝日が差し込んでくる。もう朝になっている。
彼は布団の中で伸びをすると枕元のスマホに手を伸ばす。自分の動画の再生数とフォロワーがどれだけ増えたかを確認するのが毎日の日課になっていた。
今までで多い時は、フォロワーは一晩で1万以上増えたことがあった。動画の再生数は新しい動画をアップした直後だと一晩で大体10万くらいで、その後は暫増という感じがいつものパタン。フォロワーのコメントはほぼ褒め言葉であまりにも多く、ざっと目を通す程度でとても読める量ではない。
――今日はどの程度増えてるかな。まあ、新しい動画はアップしていないから大して増えていないか。でも数万は増えてほしいな――
そんな気持ちでスマホを見る。
数字を見ると、まあ予想通りの結果。
――今日もいつも通りの退屈な一日が始まりそうだ――
そんな思いでざっとコメントを眺める。なんかいつもとフォロワーの雰囲気が違う。よく読まずに流し、あるフォロワーのコメント内の別動画へのリンクに目が止まる。
“草www”
と、少し軽蔑の意味合いを含むコメント。
――何だ?この動画。このアドレスのリンク、さっきもあった――
クリックしリンク先の動画を見ると、女性が殴る蹴るの暴行を受けたり、風呂場の水に頭を沈められたり虐待動画だ。
――ひどいことするやつもいるな――
登場人物の女性は顔はなかなか見えないけれど、やがて雰囲気から元カノのひとみだと分かる。
――おい、あいつ、動画上げられてるじゃん。バカだな――
と思ったのもつかの間、彼女を虐待している男が自分だと気づく。
――えっ、どういうこと?――
動画の再生数は軽く30万は超えている。
この動画がネットにアップされるわけがない。なぜなら持っているのは自分だけだから。自分で撮影してどこにもアップしていない。
彼は最初はネットを見ているつもりになって、実は自分のスマホの中の動画を再生しているのではないかと疑った。でもどう確認してもリンク先はネット上のSNSのサーバーだ。
彼はパニックになる。
――とにかくこの動画を消さなくては――
SNSのクレーム対応窓口にチャットを送るために、ページのありかを調べてその窓口にたどり着き、削除申請の手順を読む。意外と煩雑でめんどくさい。でも細かい質問に一つ一つ答えないと消してくれない。彼は布団から出て起き上がると、机の上のPCを起動させる。大量の文字を打つにはPCの方が便利だからだ。求められる項目に順々に答えていく。その過程でなぜあの動画がネットにアップされたのか不思議で考え始め、あっと思い当たる。
ひとみをいたぶるために、彼女にこの動画を一度見せたことがあった。自分のスマホの画面を彼女に見せ続けるのが面倒だったので、動画共有サイトに一瞬アップして彼女にそこへアクセスして自分で見ろと伝えたことがあった。ストリーミングだから正確にはスマホの中にファイルとして残らなけれど、しばらくの間はキャシュとして残るからキャッシュを他の場所にコピーするなどしたら保存は可能だ。動画ファイルが存在するのはそこしか考えられない。




