拾い物
「で、結局、あなたはどうしたいの?」
「比呂美さんを説得したい。こんな男とは別れた方が良いと。でも僕はほら、そう、人間じゃないから、人間の細かい心情というか心のひだが分からなくて。君なら比呂美さんと同じ女性として、どういうことを言われたら納得して別れられるか、それを教えてほしい」
「やっぱり機械っていうのは、ほんと人間のことが分かってないのね。彼女みたいなあーいう人間は何度か痛い目に遭わないと地に足が付いた考えが出来ないものなのよ。それに、私からするとこの男はそれほど酷くないけれど。この程度の暴力全然虐待じゃないし。ちょっとダメ男というレベル」
「でも、比呂美さんと彼は住んでいる世界が違いすぎる。どう説得すればいいか分からない」
「そんなの簡単よ。この動画を彼女に見せれば良いだけ」
「一度見せようとしたら、彼女はそれをすごく嫌がるんだ。多分本能的に何かを感じているからだと思うけれど」
彼は続ける。
「それに比呂美さんには刺激が強すぎる。たしかにこの動画は決定的な証拠だけれど、切り札を最後まで出さずに、これを持ってるというのを匂わせて、この男を説得するのがまず最初にすることだろ?だからそういう男の説得とか、君は得意かなと思って」
ソフィアはやってられないと言った感じで呆れ返る。そして自分のスマホをちょこちょこっと操作する。一連の操作を終えると、スマホを投げ出すようにテーブルの上に置く。
「これで解決よ」
「何したの?」
「SNSのわたしのアカウントにアップしたの。拾い物だって言って」
「えー、ちょっと待ってよ。そんなことして良いなんて言ってないよ」
彼はスマホを取り上げ、画面を覗き込む。
指をスマホに接触させてネットにアクセスし、動画の行き先を追いかける。すでにアメリカのサーバーに到達していて、削除するにはアカウント情報やさらにサーバー側のパスワードも必要になる。少し時間がかかる。すでに動画は公開されており、じわじわと動画を見た人に広まっている。
一瞬、彼は今から大急ぎで動画の削除を行おうとして、すぐに止めた。結局これが一番の解決方法だと自分でも思ったからだ。そしてその汚れ役をソフィアが自らやってくれた。
「君、ひどい女だね」
「今頃気付いたの?それに、あなたにそんなこと言われる筋合いはないけれど。あなたも大概だと思うけれど。もしかして自覚していないの?」
涼には過去の記憶がないから、彼女から責められても言い返すすべがない。
彼は部屋のソファーにドスンと座り込み頬杖をつく。
「まあ今出来ることは、様子を見ることしか無いか」
――比呂美さんがこの動画に気づくまでに、少し時間がかかる。見たらショックを受けるだろうから、その時に彼女のもとに駆けつけて慰めよう――
そう考えて深いため息を付いた。




