出て行って
彼は私の後ろに手を回しスマホに触ろうとする。彼は力が強いから、力ずくになれば絶対に私が負ける。もし彼が本気になって私を押さえ込んだら、私の取れる選択肢は一つしかない。
「出て行って」
「えっ?」
彼は一瞬戸惑う。
「出て行って。ここは私の家だから。あなたは居候しているだけでしょ」
彼は手を引っ込めて、思案に暮れる。
「ごめん、強引だった。でも僕の言ってることは間違っていない」
しばらく沈黙が二人の間に流れるが、涼くんが
「どうしても?」
と聞くので、
「うん」
と私はうなづく。
「そっか」
彼はそう答えると、玄関に向かう。私は自分の柄にもなく口からきつい言葉が出たことに驚いて、気持ちが追いつかない。
「短い間だったけど、ありがとう」
バタンと玄関の閉まる音で、彼が出て行ったというのに気付く。
一人になると、急に部屋が広く同時に静かに感じる。
――この部屋、こんな感じだったっけ?――
彼に力ずくで迫られたら怖いと思い、勢い余って出て行ってと言ってしまったけれど、単に今は見たくないと言えばよかったと気づく。それに彼の行動は私に対しての嫉妬ではなくて、純粋に私を思ってのことだから。
私は急いで外に出て彼を探す。でも左右を見ても夜の闇のみで、彼の姿は見当たらない。一番最初に彼を見かけた公園のひょうたん池のほとりに走って向かってみるが、誰もいない。戻って家の周辺の通りを全部走って探したけれど、どこにも見つからなかった。
遠くでフクロウのホーホーという鳴き声のみが辺りに響いていた。




