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幸せの絶頂

その頃、私は帰宅して夕食の準備をしていた。

スマホの着信音が鳴る。馬渡さんだった。最近はSNSのDMが多かったのに直接通話は珍しい。

「はい、矢野です」

「今、時間良い?」

やけに急いでいるような雰囲気。

「はい、大丈夫です」

「この間奈良に行った時の話なんだけど」

プロポーズの話だとすぐに分かった。

「そろそろ返事聞いて良いかな?」

やっと聞いてくれた。毎日やり取りしているDMで、私からこの話題を出すのは厚かましい気がしていたし、逆に馬渡さんの方からも聞いてくれなかったから心配していたのだけれど、やっと胸のつかえが取れる。

「もちろん、受けます。こんな私で良ければ、お願いします」

「良かったー。それを聞きたかった」

馬渡さんのすごくうれしそうな声を聞いて、私もうれしくなる。

「新しいYouTubeの動画のネタが出来たから、今度撮影しよう。趣味半分実益半分。石下神社からのお仕事だしね」

石下神社という言葉で、養子を断った件を思い出す。そのことを言おうとした時、玄関の扉がガチャっと開いて涼くんが帰ってくる。

スマホの受話口に手を当てて聞こえないようにして、”おかえり”と彼に声をかける。

「んっ、どうしたの?」

スマホからの声に私は一瞬考える。まだ涼くんが自分の家に居候していると馬渡さんに言っていなかった。いずれ言わなければならないとは思っているけれど、いろいろ込み入った話だからそれはもっと落ち着いた状況で直接会って話したい。

涼くんは珍しく、私の横で私がスマホで話し終わるのを待っている。何か話があるみたいに。

仕方が無いので、私は早めに話を切り上げることにする。馬渡さんの方も私がプロポーズを受け入れることを聞くと安心したような感じだったので、また今度いろいろ話そうと言って通話を終了する。

私がスマホを机に置くとすかさず、

「馬渡さんのことで話があるのだけど」

と切り込んでくる。幸せの絶頂にいる私の気持ちに土足で乗り込んでこられた気がして、少しムッとする。

「何?」

いつになくぶっきらぼうに答えると、彼はなんと信じられないようなことを言う。

「馬渡さんからのプロポーズ、断って」


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