男の直感
電話の向こうで沈黙が流れる。やがて、
「それは、何でかね?」
「本当にありがたい話なんですが、そちらの家族にとって全然知らない私が突然入っていくというのは迷惑かなと思いました」
もちろんそれは本音ではなく、口実に過ぎない。そして神主さんもそれに気付いたような気がする。でも私の言葉尻を捕まえて説得しようともせず、
「うん、うん。そっか。分かった」
と、自分に言い聞かせるように言う。
「わざわざ電話してくれてありがとう。養子にはならなくても、わしにとってはご先祖様の身内だと思っておるから、何か困ったことがあったら遠慮なく言ってきなさい。こんな老いぼれでも、君の役に立てる時があるかもしれんからな」
私は感謝を述べる。それから馬渡さんとのYouTubeでの神社PRは養子の件とは全く関係なく行うと言ったが、うんうんとあまり興味なさそうに聞き流された気がした。
「じゃ、元気でな」
名残惜しそうにそう言う神主さんの声を聞くと、すごく悪いことをしたような気がする。電話を切った後、本当にこれで良かったのかなと思ったけれど、もう言ってしまったことだからと頭を切り替える。
すると涼くんが、
「馬渡さんのことなんだけれど」
と突然切り出してくる。
「プロポーズは受けるつもり?」
私の中ではもう確定していることだから、
「うん」
と答える。
彼は少し言いためらっているような素振りをしてから、
「もう少し考えてみない?」
と言う。
「何で?」
「男の直感」
「男の直感?何それ?女の直感なら聞いたことあるけど」
黙り込んでしまった彼を見て、本当に男の直感つまり個人的な好みレベルの話だと思う。
――もしかしてアンドロイドでも嫉妬という感情があるのかしら――
ちょっと嬉しい反面こういう大事な局面で、それも自分で決めたことに対して意見されることにちょっとムッという気持ちが芽生える。
――今まで嫉妬してほしい時には無関心で、私の考えを肯定してほしい時に嫉妬するなんて――
その時、馬渡さんからいつもの夜のSNSのDMが来て、返信する。大学の話とか、次のYouTubeの話とか。彼はここ数日、次のYouTubeのネタを練っていると言う。
“次はいつ会える?”
“私はいつでも大丈夫です”
“分かった。僕の方の都合が付いたら会いに行くよ”
何度かDMのやりとりの会話をして、おやすみスタンプで終える。
――あっ、そう言えば、養子を断った件を書くの忘れていた。明日書けば良いか――
私にとって一日の中で夜のこの時間が一番至福の時間で、この時間があるからこそ毎日が輝いていた。




