お断り
夕方にバイトから帰り宿題を終わらせ、これから夕食の準備をしようかなと思っていた時、涼くんが帰宅する。彼のバイト先のコンビニは24時間営業なので、シフトにより帰る時間はいろいろだけど、今日は早めの帰り。
実は今日、彼に相談したいことがあった。相談というよりも、自分だけで決めたことだから、その判断が思いっきり間違っていないかの確認。私は涼くんに話しかける。
「奈良の神社の件なんだけど、覚えている?」
「うん。この間、YouTuberの人と一緒に行って、観光PRすることに決まった件でしょ」
「そう。その時に、神社の人に養子にならないかと誘われた話の方なんだけど」
私は奈良から帰ってすぐに涼くんに養子の話はしていて、その時はまだどうするか決めておらず、誘われたという事実のみを伝えていただけだった。
「受けないことにしようと思うの」
「ふーん。良いんじゃない。僕はどんな状況でも比呂美さんに付いていくから」
いろいろ考えたけれど、今までどおりここ埼玉で暮らしていく前提だと、私が卑弥呼の子孫であっても、今後の生活が何か変わるとも思えない。
また養子になったら学費などいろいろ援助してくれると言っていたけれど、今でも援助なしで勉強できるし、生活もできているから、今後も無くて大丈夫。そういう現実的な面から考えて、養子にならなくてもやっていけると思えた。
しかし、一番の理由は馬渡さんとの結婚。私と彼との新しい生活の中に他の人に入ってきてもらいたくない気持ちがある。
神社の神主さんは優しそうな人に見えたけれど、他に私が知らない家族や身内が色々いる訳で、その人たちの中に入って溶け込めるかというと、そんな自信はない。
馬渡さんにも相談したいと思いSNSの通話をかけるが応答がない。急に電話しても出られないのが普通だし、私は呼び出し中のSNSをあきらめて切る。
神主さんへの返事はメールですることも出来るけれど、折角私に声をかけてくれたのに断るわけだから、直接電話して伝えることにする。時間は5時近く。電話するにはギリギリ迷惑にならない時間かもしれない。石下神社に電話し神主さんを呼び出してもらう。
「あー、もしもし。矢野さんかね」
「はい。こんにちは。今、時間良いでしょうか?」
「おう。良いよ」
「先日伺った養子のお話ですが、本当に申し訳ないのですがお断りしようかと思います」




