常連さん
ポツリポツリと先輩ホストが出勤し始め、開店時間になる。
少しずつ客が入り始め、涼はあるテーブルのサポートに呼ばれる。お手拭きを出したり、タバコの火をつけたり、灰皿を変えたりとかして、話題を振られたときに会話に入る。
最初のテーブルはこの店に初めての客だったらしく、馬渡のことを知らないだろうと思い、適当に話を合わせて時間をつぶす。
それから何回かテーブルに呼ばれるものの、馬渡を知っている人は誰もいない。時間が早いせいか、一見さんや物珍しさで来る新規の客ばかりで常連さんは全く来ない。
夜10時を回ると、少しずつ常連さんっぽい客が来始める。ホストクラブの常連なんて結構やばい人なんじゃないかと身構えていたけれど、意外に皆普通で、常識人という感じで新人に優しい。
夜11時過ぎ、香織という女性が来店する。涼が体験入店と自己紹介をすると、
「がんばってねー」
と声をかけてくれる。
タバコを吸うときに、さっとライターで火を差し出すと、
「そんな気、遣わなくて良いよ。お話ししようよ」
と言うので、
「僕、馬渡先輩にあこがれて、この店に来ました」
すると、さっきの先輩ホストと同じように不思議そうな顔をする。
「リクのこと?ふーん、なんで?」
「僕の知り合いの女の子が、馬渡先輩にぞっこんなんですよ。だから、そんなにモテる馬渡先輩みたいになりたいなーって」
「えっ、それ、きっと、その子騙されているよ」
涼はやっと知りたい情報に巡り合えたと思ったけれど、それは顔に出さず、逆に何も知らなさそうな顔をする。
「お店であまりここのホストの悪口、言えないけど」
香織は小声になり、涼の耳に顔を近づけて、
「あの人、金に汚いんだ。まあ顔は悪い方じゃないから若い子で夢中になる子が何人かいるんだけど。いつも女に無理させるの、月末の売り上げとかで」
涼はうなづく。
「普通は売り上げで無理言われたら、女の子の方から逃げちゃうんだけど、中にはどうしても担当ホストから離れられなくて、借金してまで店に通ってくる子とかいるんだよね。で、借金も借りれなくなったら、風俗を紹介してるって話」
馬渡がどういう性格の男か大体理解できた。どう考えても比呂美から離れさせなければならない。でもまだ、噂話レベルで、彼女を説得できるだけの証拠がない。もっと具体的なはなしを聞く必要がある。彼は彼女と話を続けていろいろ聞き出そうとする。
「リクの元カノ、知ってるよ」
予想外の言葉に、彼は香織の方を見る。
「聞いても良いですか?」
と答えると、
「どうしようかな?」
と誘惑するような目つきで彼の顔を覗き込む。
彼女は涼に興味を持ったからいろいろ教えてくれたのだが、かなり酔いが回り始めている。
「何がお望みですか?」
「アフターして」
「良いですよ」
ヤッターと香織は嬌声を上げる。その後は主に彼女のテーブルに着く。定時後、その日の給与をもらうと店の前で待っている彼女と合流する。時刻は12時を超えている。
「飲みなおす?」
彼女が聞くので、彼はいっしょに歩きだす。大通りもかなりの店が閉まっていて、ちょっと裏通りに入るとほとんど人通りはない。
2人で次の店を探しながら歩き、向こうに交番の赤い灯りが見える。
すると涼は肩を抱くふりをして香織の後頭部に手を回し、手からごく微量の電子波を照射する。彼女は急に眠たくなりガクッと涼にもたれ掛かる。爆睡している。後から思い出したら、酔いが回ったと思い込むだろう。
彼は彼女を交番の前に横にすると、駅に向かって歩き出す。後ろを振り返りながら
「ごめんね」
とつぶやく。




