体験入店
涼はJR新宿駅で降りると、東口から出て北へ向かう。
桐生から得た情報によると、馬渡は歌舞伎町のホストクラブ「True Love」に勤めているという。
“TrueLove”真実の愛とはまたずいぶん皮肉な名前だなと思う。いや、逆に本質を付いているかも。ホストクラブに来る客は偽りや金で買える愛ではなく、真実の愛を本当は求めたいのだから。
どうやって馬渡のことを調べようかと考えてネットを検索してみると、このホストクラブが新人を募集していることを見つけた。
“体験入店ご希望の方”のページへ行くと、電話番号が書いてあり、事前に電話で予約が必要と書いてある。
「今のご時世に、電話とはまたずいぶん古風だな」
と思いながら電話し、体験入店の面接の予約をしていた。その際に必要な身分証明書はソフィアに相談したら、数日後にはできていた。
「彼女、まだあっちの世界にどっぷり漬かっているな」
パラシュートと身分証明書で、2つ借りができた。
そんなことを考えながら、青梅街道を横断しセントラルロードを進む。この辺りはすでに歌舞伎町のはずだけれど、意外に普通の街の雰囲気。まだ日中だからかもしれないけれど、すれ違う人もガラが悪そうではなく普通の繁華街の人達という感じで、思っていたほどワイワイガヤガヤ活気がある訳でもない。むしろちょっと寂れている感じすらする。
東宝ビルに突き当たって右に曲がり、さらに北上し少し進むと目的のホストクラブがある。
雑居ビルの狭い階段を上がると廊下があり、その中に一つだけ豪華に改装した扉がある。開けて中に入る。
誰もいない。店はまだ開店前らしい。
「すみませーん。面接に来ました」
声を上げると奥から中年の男が出てくる。かなりいかつい角刈り。
「あっ、面接の方?」
「予約していた者です」
出てきた男は店長と名乗り、いくつかたわいもない質問をする。この業界初めて?とか、今の仕事は?とか。
一通り質疑が終わると、
「じゃ、やってみようか。今日はいける?」
「はい」
そのまま更衣室に案内されてスーツを貸してもらい、着替える。
「基本的なマナーは彼に聞いて」
先輩ホストを紹介され、彼と二人で店の奥のテーブルに着く。それからホストとしてのルールや仕事内容をざっと教えてもらう。一通り先輩ホストが話して、
「じゃ、俺を客だと思って、やってみて」
と言われて、教わった通りのことを実践すると、彼は目を丸くする。
「前、何の仕事してた?お前、相当頭良いだろう?普通、ここまで一度で覚えられないんだよね」
「コンビニの店員です」
「へぇー。お前体験じゃなくてそのまま正社員なれるよ。イケメンだし。絶対売れる」
と言う。
「実は馬渡さんがこのお店でホストしていたって聞いて、憧れて来ました」
「えっ、リクのこと?」
少し不思議そうな顔をする。
「あー、彼の知り合いなんだ」
「馬渡先輩は、どんなホストさんですか?」
先輩ホストはスマホのスケジュールを見ながら、
「今日は休みか」
とつぶやき、少し答えにくそうに
「んー、まあ、普通かな。うん、まあ、良い奴」
いかにも無難な、取ってつけた社交辞令的なことを言う。そして、
「まあ、がんばれよ。分かんないことあったら、サポートするから」
と席を立って行ってしまう。




