居候
涼は立ち上がりながら、まだ横になっている桐生に手を差し伸べる。桐生は彼の手を振り払うと座りなおし彼を見上げる。
「お前もよく分からん奴だなあー」
狂暴なのか、優しいのか、彼は涼を測りかねていた。
「前から聞きたかったんだけど、一体矢野さんの何なの?親戚?」
涼は答えにくそうに言いよどむ。
「まあ、居候ってところかな」
「はっ?」
涼は事の経緯を説明する。倒れていたところを比呂美さんに助けられて家に転がり込んだこと、記憶を失っていること。自分がアンドロイドだということは自分からは言わなかった。
桐生はあっけにとられて聞いていたけれど、やがて、
「世の中、下には下がいるもんだな。俺も結構アウトローな過去だけど、それ以上だな」
まじまじと涼を見る。
「てっきり親戚か何か血縁関係のある人だと思ってたのに、赤の他人とはな。記憶が無いからって、助けてくれた女子高生の家に居候するって、普通無いだろう。矢野さんも人が良いな」
「記憶が戻るまでという約束だけどね」
少し間を開けて、桐生が続ける。
「で、やったの?」
「何を?」
「何をって、あれだよ」
「あれって?」
「おい、お前なー。その年でそんなこと言ってたらダメだろ。まさか、記憶喪失って男の本能も忘れるのか?」
桐生はあきれたような顔で涼を見る。
「そんな調子だと馬渡っていう男に取られるぞ。こんな俺でも、あいつだけは止めておけと思うような奴だからな」
「馬渡?比呂美さんが一緒に動画撮影している人?」
「あー、やっぱり知らないかー」
渋い顔をして続ける。
「まあ、矢野さんにはいろいろ恩もあるし、こっちも少し迷惑もかけたから、その借りを返す意味もあるから言うけど、馬渡って、ホストだぜ」
「ああ、それは知ってるよ。本人が言っていたって、比呂美さんから聞いた」
「かなりガラが悪いのも知ってるか?売掛払えない客を風俗に沈めているって」
それは聞いている話と違った。比呂美から彼は優良店で働いていると聞いていたから。
涼は以前助けてもらった恩で比呂美を守ることを心の中で誓ったから、今の桐生の言葉が気になる。彼は馬渡をほとんど知らないけれど、比呂美はその彼からプロポーズされている。比呂美が馬渡のことをわかって受け入れるつもりなら良いけれど、知らないまま受け入れてしまってはそれは悲劇だ。
少なくとも正しい判断できるように、必要な情報を集めなければ、と彼は思った。




