花火大会
朝早く、外でボンッボンッと音がする。今日は花火大会が家の近くであることを思い出す。近くの田んぼが打ち上げ会場で、大勢の見物客が集まり屋台もたくさん出る。
毎年こんなに近くで開催されていたのに、今まで一度も行ったことが無かった。人混みが苦手だったし、一人で行っても浮いている感じがするだけだから。
もし馬渡さんと結婚して引っ越ししたら、もう2度とこの花火大会に来れなくなるかもしれない。そう思うと急に一度で良いから見ておきたくなった。私は涼くんを誘う。
夕方、二人で大宮第2公園のひょうたん池に向かう。家を出てハナミズキ通りに出ると、そこにはもう大勢の見物客が列をなしてぞろぞろ公園方面へ歩いている。
一緒に列に加わって歩き始める。
途中屋台の列があって、たこ焼きやベビーカステラ、りんご飴、イカ焼きなど良い匂いがする。
「何か欲しいものある?」
「涼くんが買ってくれるの?」
「うん。いつものお礼」
「わぁー、うれしい」
夕食代わりに焼きそばを買ってもらう。
私は全く気付かなかったのだけれど、涼くんは私たちの少し後ろに、夏なのに季節ハズレのフード付きパーカーを着込んで、顔を隠している男に気づく。
立ったまま食べるのは難しいし、行儀悪いから座る場所を探す。折角だから花火がきれいに見れる場所が良い。
――どの辺りが花火が良く見えるのかしら?――
ひょうたん池の外周通路沿いを歩きながら、腰かけられそうなところを探す。フードの男も一定の間隔をあけて私たちの後を付いてくる。池の斜面沿いに空いているエリアがあったので、そこに涼くんと並んで座る。
「じゃ、いただきます」
私は焼きそばを食べ始める。すると涼くんは
「ちょっと用事があるから」
と言って、座っている人を避けながら目の前のひょうたん池の方へ歩いていく。池に着くと、その縁に沿って池の向こう側へ行き、そこからまた人混みの中を縫うように斜面を登り、見えなくなってしまう。
――あっちへ行っても何もないのに、どこへ行くのかしら?――
ボンッ、ボンッ
打ち上げが始まり、夜空にきれいな花火が咲き、観客が一斉に歓声を上げる。
――ちょうと良い時なのに、涼くんはどこに行ったのかしら?――




