ロケラン
彼はハブに手を置くと、再度ネットに潜り込む。その時はっと気づき、このビルの25F、このフロアの賃貸契約書を探す。あった。ざっと素早く目を通すと、外務特約との項目がある。外務省の資料の番号が書いてあるので、ネット経由で外務省のサーバーへ行く。こちらは公開されているので、資料番号を探すとすぐに見つかる。
パシフィックフィナンシャルセンタービルの25階フロア全部に治外法権が設定されている。
――ここは治外法権、つまりアメリカと一緒の扱いだから海兵隊がいるし、平気で銃撃してきたのか――
とんでもない所に来てしまったと思い、早く逃げ出そうとする。サーバールームの外は静かだ。もう警備員はいないみたい。
かつてあった扉はボロボロに壊れて外れかかっている。出入り口からそっと頭を出す。誰もいなさそう。この隙に逃げようとサーバールームから出ると、再び通路の向こうから複数の足音が聞こえる。でも撃ってはこない。何をしているんだろうと赤外線モードに切り替えると、海兵隊員の一人が何か長方形の筒を肩に担いでこちらに向けている。
――ロケットランチャーだ、何でこんなオフィスビルにロケランなんか用意してるんだよ――
涼は急いでサーバールームに戻り、逃げ場を探す。ドンッという音とともに閃光がこちらに向かって飛んでくる。彼は天井に通気口があるのを見つけ、網目の蓋を引きちぎると間一髪で排気口へ飛び込む。その直後にサーバールームにロケランの砲弾が着弾。部屋全体が一瞬で炎に包まれ、ビルの外壁や窓ガラスが吹き飛び、ビルに大きな穴が開き、機材や配線の一部が燃えながらビルの外へ吹き飛ばされる。
同時に火災報知器が作動し、けたたましい警報とともにスプリンクラーから水が噴き出す。
「無茶するなー。隣のテナントからクレームや損害賠償請求されるぞ」
天井裏の通気ダクトの中でそんなことを思いながら、ふと不思議に思う。
――もしかして損害賠償を請求されないという安心があるから、こんな極端なことをするのでは?――
その時このビルの25F全フロアに治外法権が設定されていることを思い出す。
――あれっ、隣の日本文化継承財団も治外法権だ、何で?――
それに、その財団とホワイトストーンのオフィス間に壁が無い。
――もしかして、財団とホワイトストーンは同一?――
最初はただの思い付きだったけど、複数の証拠がそう物語っていることに気づき、だんだんと確信に変わる。
外壁にポッカリと開いた大きな穴から彼は外をのぞき、ジャンプして届きそうな隣のビルを見つける。しっかりした足場を探すと助走をつけて走り出し、彼は闇夜の中へ消えていった。




