箸墓古墳
「箸墓古墳って知ってる?」
突然質問されてびっくりする。
「いえ、知らないです」
「じゃ、邪馬台国は?」
「学校の授業で聞いたことあります」
「どこにあるって、習った?」
「確か、北九州か、近畿の2説あるって、聞いた気がします」
「うん。まあ、そうだね。でも学界ではほぼ近畿説で決定なんだ。大体、邪馬台国って中国の書籍では邪馬対って書いてあるんだけど、それってやまとの当て字だから。邪馬台国イコール大和国、つまり大和朝廷で、奈良なんだよ」
「そうなんですか」
「邪馬台国といえば、卑弥呼って聞いたことある?」
「はい、確か邪馬台国の女王ですね」
「うん。彼女の墓が箸墓古墳と言われているんだ。これもほぼ学会では確定な感じになっているんだけど、今回、僕たちのチームがそれを確認した。箸墓古墳に埋葬されていた人のDNAが女性であったことと、卑弥呼が中国の魏からもらったとされる剣2本が奈良の橿原市の石下神社に奉納されているんだけれど、その柄の部分から採取できたDNAも女性のもので、それが箸墓古墳のDNAと一致したんだ」
話についていくために必死に集中する。
「つまり、邪馬台国は今の奈良あたりにあって、その女王の卑弥呼の墓は桜井市の箸墓古墳で、彼女のDNAも分かっている。ここまでは良い?」
「はい」
彼はもう1枚、別の紙を封筒から出した。
「これが卑弥呼の遺伝子結果なんだけど」
私の遺伝子結果の紙と、卑弥呼の結果の紙を並べる。彼は2枚の紙の波線のグラフを指さした。
「この2つ、そっくりだと思わない?」
私は波線のグラフを端から見比べてみる。
――確かに似ている。いや、ほぼ同じ――
じっと私の顔を観察している彼の視線を、私は感じる。
「そうですね」
「これはミトコンドリアのDNAのグラフで、ミトコンドリアっていうのは細胞の中にある、さらに小さい細胞のようなものなんだ。これは母親から子供へ受け継がれるDNAなんだ。男の子も女の子も母親から受け継ぐけれど、次の世代に伝えるのは女性なんだ」
「と言いうと?」
「母親からしか子供に遺伝しない。父親は関係ない。君と卑弥呼の遺伝子の相関を計算してみると、現在確認されているDNA情報からは、卑弥呼と同じ母系の系統に属する可能性が99.9%を超えたという結果だった」
「つまり?」
「君は卑弥呼の直系の子孫ということ。それも女子直系。女王という意味では、女子直系は正真正面の正当な女王様ってところかな?」
にわかには信じがたい。
うれしいとも思わないけれど、嫌だとも思わない。実感がないし。何とも言えない。それにさらに言うと、
――もしそうだったとして何か変わるのかしら?――
多分、何も変わらない。
どう答えるか考えあぐねて、しばらく沈黙する。




