ナイトプール
プール自体はそんなに大きくなく全長25mも無いくらいで、意外に地味な印象を受ける。大宮公園の市民プールの方が規模もスライダーなども充実している。ただこちらの方が照明がピンクとか黄色とか、カラフルに凝っていて異世界の雰囲気を醸し出している。
今日はイベント会社主催の撮影コンテストを行っているらしく、露出の多い水着姿の若い女性が多い。アヒル型やサメ型の浮き輪に乗ったりとかプールの中でカラフルな飲み物を飲んだりとか。そして彼女たちの周りにその数倍のむさ苦しい私服姿の男たちがカメラ片手に群がっている。
純粋に泳ぎに来ているのは水着姿の中年男性が数人で、彼らは多分宿泊客だろう。プールの端の方で同じコースをとにかく何度も行き来してダイエット目的に泳いでいる。
涼はプールサイドの空いているビーチチェアに座る。片手には家から持ってきたバストンバッグがある。ここで人が少なくなるまで待つ予定だ。周囲を観察し、パシフィックフィナンシャルセンターの方角を確認する。
彼のビーチチェアのすぐ隣を水着姿の二人組の女の子が通り過ぎていく。そのうちの一人が通り過ぎた後に彼の方へ振り向き笑いかける。そして少し離れたところで立ち止まり、もう一人と話し始める。時々彼の方をチラッと見る。段々彼女たちの周りにカメラ小僧が集まってきて、ビーチサイドでの撮影会の様相になってくる。
――印象に残ったり、写真に写ったらまずいな――
ナイトプールの終了時刻は9時なのでそれまで息を潜めて目立たないように待つつもりだったけれど、彼は予定の時間より早めに行動を起こすことにする。なぜなら彼に興味を抱く女の子が現れるのは想定外だったから。
彼は全く意識していなかったけれど、かなりのイケメンだ。男の外見というのは実社会では何の役に立たないけれど、一部の女性にはグサリと刺さる。
彼女は涼から少し離れたところで立ち話をして、彼に注目されたい、声をかけてほしいと思っていた。冴えないブサメンから声をかけられても嬉しくないし、プライドも満たされないけれど、涼のような格好いいイケメンから声をかけられたら損得勘定なしでうれしい。
でも涼の方はそんな彼女の気持ちは全く分からず、ボストンバッグを持ってビーチチェアから立ち上がると、プールサイド横の建物の裏の方へ歩いて行ってしまう。彼女はカメラ小僧の輪から抜けると、涼を追いかけて建物裏へ行く。通路に立ち入り禁止の札がひもにぶら下がっているが、その札が大きく揺れている。直前に誰かが通ったことを示していた。
周囲は照明も無く、後方から漏れる明かりだけが頼りで薄暗い。それでも今までブサメン達のカメラ小僧から、花として持ち上げられ気が大きくなっていた彼女は立ち入り禁止の札をどけて、通路を進む。




