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18番線ホーム

駅前に戻ると、昨日SMSの通話で計画した通りレンタサイクルを借りて、自転車で15分くらいで石舞台古墳へ着く。それから亀石、鬼の雪隠、酒船石、飛鳥宮跡、飛鳥寺と観光名所をぐるっと回る。

天気は快晴、穏やかな晩夏の風、のどかな田園風景。その中を馬渡さんと自転車で颯爽と走り抜ける。契約が取れたことは正直、私にはあまり実感はなかったけれど、それで馬渡さんが喜んでいること、そして誰かと一緒にいるということがこんなにも楽しいことなんだ、と改めて感じる。

――このまま今が永遠に続いてほしい。馬渡さんと離れたくない。これからもずっと一緒にいたい――

そんな言葉が頭の中にはっきりと浮かび上がり、またあの胸の奥が苦しくなるような感触がした。

一通り名所を見終わって駅に帰る途中、今日の午前中の石下神社の人との話し合いを思い出す。

「そういえば、石下神社の人たちに、私に養子にならないかって、言われたの」

「えっ、養子」

「そう。彼らも卑弥呼の子孫だから、私たちは遠い親戚だって」

今まで快活に話していた馬渡さんが急に黙り込む。何か考えているようだった。

「どうしたの?」

問いかけても反応なく、しばらくしてから

「いや、別に」

と上の空。

橿原神宮前駅に着く。京都へ行く近鉄線の中でも馬渡さんはずっと静かだ。私が何か変なこと言ってしまったのかな、と探りを入れてみても、

「ごめん。ちょっと考え事していて」

と、特に怒っているようではない。

疲れたのかなとか妹のことを思い出したのかなとか、いろいろ思いめぐらす。少なくとも自分のせいではないと馬渡さんが言ってくれたのは唯一の救いだ。

京都で新幹線に乗り換え、品川を過ぎ東京に近づいてくる。彼との会話が少ないまま東京駅でホームへ降りる。私は上野東京ラインで大宮へ。馬渡さんは中央線で新宿へ。ここがお別れの場所。

今までだったら数日毎に定期的に動画撮影で会っていたけれど、今日後半の無口な様子から、もしかしたらもう二度と会えないかもと不安がよぎる。

私たちの関係を続けるかどうかの選択権は彼にあって私にはない。この二日間あんなに楽しかったのに、実は私たちの関係は対等ではなくて一方通行だったと今さらながらに気づく。

「また、連絡しても良いですか?」

私は恐る恐る聞く。断られたら、立っていられず倒れてしまいそう。彼は下を見つめながら無言だったけど、意を決したように私を見ると言う。

「結婚してほしい」

――えっ――

全く予想していなくて、最初は聞き間違いかと思う。

「えっ」

聞き直すと、

「誰か付き合っている人いる?」

と聞いてくる。

さっきの言葉はプロポーズだったんだ。

「付き合っている人はいないけれど、でもまだ17だし」

「だから婚約だけして、18になったら結婚しよう」

すごくうれしい。うれしいけれど、結婚とかそんな重要なことを即答してしまっていいのだろうかと思いとどまる。

「・・・」

どうと答えようか思いあぐねる。

「僕は君を幸せにできる」

キラッと輝くような瞳で私を見つめて言う。やっぱりイケメンだ。格好良い。

でも昨日若草山で見せた、あのちょっと間の抜けた平凡な笑顔も良かった。そして、そっちの笑顔でプロポーズしないことに一抹の不安が、頭のごく端っこに一瞬だけ生じる。でもそれはすぐにプロポーズの興奮にかき消されてしまう。

夕暮れの中、彼の腕に引き寄せられて、私達は東京駅の新幹線の18番線ホームで人目もはばからずにキスをした。


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