企業案件
「具体的に言うと、何かすることはあるのですか?」
「基本的には何も変わらん。とりあえず年数回こちらに来てもらい、神社の催しに参加するくらいかな」
神主は厚東の方を見る。
「今まで通り、向こうで生活していてもらって構わんよ。向こうの学校へ行き、好きなことをしていてもらって。もし高校卒業後進学したいのであれば、費用も考えよう。だから」
と一瞬言葉を止める。
「君が望めばの話だが、養子縁組を考えておる」
私は何と答えてよいのか分からなかった。
確かに私には保護者がいないので、高校卒業後のことを考えると不安でしかない。何とか仕事をしてギリギリ食べていけるだろうという感覚はあるけれど、高卒で社会に出て職場が合わなくて辞めて生活に困っているという話も聞く。職場が合うかどうかなんて今から分かる訳がない。そういう点保護者がいれば安心できる。私にとって悪い話ではない。もともと私には失う物がないからどう考えてもプラスしか思いつかない。
でも、何かが引っ掛かる気がする。それが何かは分からない。
「まあ、すぐに答える必要はないから。ゆっくり考えてもらえれば良いよ」
「分かりました」
2人がよろしくと言いながら頭を下げるので、私もよろしくお願いしますと頭を下げる。
再び神主が手を叩くと受付の人がドアから顔を出す。
「出口までご案内差し上げて」
私は受付の人に連れられて、もと来た玄関にたどり着く。社務所の玄関の待合室のソファーで待っていると、馬渡さんが渡り廊下の向こうからニコニコ顔でやってくる。
2人で社務所から出て、しばらく歩いて社務所が見えない距離まで来ると、
「企業案件、キタッ―――」
馬渡さんがガッツポーズする。
「契約はどんな話でした?」
馬渡さんは契約内容やその金額について話してくれる。一時的な契約金や毎月定額の固定料金、動画の再生回数に比例した歩合料金など。全部私たちが受け取る側。
「よーし、これからじゃんじゃん稼ぐぞー。ぶっちゃけYouTuberって、スポンサー付かないとあんまり儲からないんだよね。取材と撮影がんばるぞー。矢野さんは衣装映えするから再生回数見込めるし、これからも頼むよ」
――これで私も少しは馬渡さんの役に立てる――




