スイミー
2人の男性は満足そうにする。これで話は終わりかなと思ったら、厚東さんという人が神主の方を向いて、
「あの話は?」
と小声で言う。神主は
「あー、あれな」
と深くため息を付いて、あまり言いたくなさそうに続ける。
「これは彼女だけの話だから、君は別室で契約を進めてくれるか?すまんな。卑弥呼の子孫ということで、ちょっと特別に聞きたいことがあってな」
と馬渡さんに言う。少しして山本さんが来て、彼と馬渡さんの二人で別室へ出て行き、私一人、応接室に取り残される。少し不安になる。
「実は、我々の中で君のことを話した際に、一部の者からぜひ君に我が物部一族に加わってもらいたいという意見が出てね。石下神社は代々物部一族の氏寺で、古来より物部家がその当主を務めておる」
「はい」
神主さんの名前が物部だったことを思い出す。
「世間では卑弥呼の正体は分からないということになっておるが、物部一族に代々伝わる伝承や古文書から、彼女は物部一族の者で本当の名は伊香色謎命、イカガシキメというんじゃ。つまり、物部一族はみな卑弥呼の子孫であり、君とわし達は遠い親戚ということなんじゃ」
「はぁ」
「ただ、わしらは2千年の間に本家が滅亡し当主が分家筋に移ったり、他の家との混血や婿養子などを繰り返したりして、正直卑弥呼の子孫といわれてもかなり怪しくなってしまっておる。そんな時に、君が現れたんじゃ。YouTubeのDNA鑑定書を見させてもらったが、君は正真正銘卑弥呼の直系子孫であり、わし等からしたらご先祖様の再興なんじゃ」
「・・・」
「急にこんなこと言われても困るだろうな。あくまでも一部の者の意見だから、頭の片隅に留めておく程度で構わんよ。もちろん君にも自分の生活があるだろうし、最終的に決めるのは君だから」
何を求めているのかが、まだ分からない。
「人というのはか弱い存在なんじゃ。そんなか弱い存在が生き残るために必要なことは群れることなんじゃ。最近は学校の授業で習わんか?小さい魚が大勢集まって大きな魚の振りをするという、あれ何じゃっけ?」
「スイミーですか?」
隣の厚東さんが助け舟を出す。
「そうそう。我が物部一族が2千年もの間生き永らえたのは、ひとえに身内で一致団結し助け合うという古来からの習わしのおかげなんじゃ。そして君がそのスイミーに当たる訳じゃ。だからぜひ我が一族に加わってもらいたい」




