観光大使
しばらくすると、またコンコンと音がして、
「失礼するよ」
との声をともに、二人の中高年の男性が入ってくる。
馬渡さんが立ち上がったので、私も立ち上がる。
「初めまして。馬渡凛久と申します。この度は招待いただき、ありがとうございます」
私も
「初めまして。矢野比呂美と申します」
と続けて言う。
「良いよ、良いよ。座って。気楽にして」
彼らはドスンっとソファーに座る。
「神主の物部修一郎じゃ。こっちは厚東、まあメモ係じゃ」
そう言いながら二人は名刺を出す。
「本来なら、こっちから会いたいと言ったので、こっちが関東へお邪魔するべきところなんだが、石下神社を見てもらった方が話が早いと思って、わざわざ来てもらったんじゃ。新幹線で来たんか?」
馬渡さんが
「はい」
と答える。
それから、何時間くらいかかったかとか、昨日のホテルの居心地はどうだったかとか、ちょっと雑談をする。
「今回、君たちに会ってみようという話になったのは、君が卑弥呼の子孫だからなんじゃが、そこんところは良いかな?」
と私の方を向いて言うので、
「はい」
と答える。
「よかろう。じゃ、話を進めるとして。そうじゃな、何から話そうか。まあまず、石下神社についてなんじゃが、この神社は卑弥呼を祭っておるんじゃ」
「はい」
「御神体は布都御魂大神刀と布都斯魂大神刀。どちらも卑弥呼が魏より賜った刀じゃ」
私たちはうなずく。
「結論から言うと、卑弥呼の血を引く君を前面に立てて、YouTubeの動画でこの神社の観光のアピールをしてもらいたい、ということじゃ。観光大使または巫女のようなものと考えてもらってよい」
多分そういう内容だろうと、馬渡さんから事前に聞いていたから私はあまり驚かなかったし、むしろ予想通りで安心する。
「年に数回、神社のイベントがあるんじゃ。新年の神火祭、2月の紀元祭、4月の春季大祭、秋の新嘗祭、年末の大祓式などだが、その際に神社まで来て彼女に参加してもらい、その様子や説明を動画で配信してもらえれば良い。当然じゃが、衣装も交通費も宿泊費も全部こちらで負担する」
「はい、大丈夫です」
馬渡さんはうんうんとうなずきながら聞いていて、勢いよく返事する。私も同じ気持ちだった。年数回、関西に旅行できるわけだから。
「おう、引き受けてくれるか。良かった。では、契約の詳細は渉外と詰めることにするか」
神主はそう言うと、手をポンポンと叩く。
ドアが開き、さっきお茶を運んできてくれた受付の人が顔を出す。
「渉外の山本、呼んでくれんか?」
「はい」




