セレブ
ちょうどパスタが茹で上がる。
彼女はパスタを皿に取るとソースと和える。彼が用意したサラダと冷蔵庫から取り出したワインとともに食卓に置き、彼女は席に着く。
「そこのコンセントから充電してて。それがあなたの食事にあたるでしょ」
テーブル横のコンセントを指差す。
キリスト教徒の食事前の祈りを簡単に済ませると、一人で食べ始める。彼は腰からケーブルを伸ばすとコンセントに挿す。食卓のソフィアの正面の椅子を引くと、彼女を見ながら席に着いた。
「パスタとサラダとワイン。セレブだね」
「セレブ?」
少しの間の後、彼女は答えた。
「女の一人暮らしなんて、みじめなものよ」
サラダを食べた後、パスタをフォークでクルクルっと巻きながらつぶやく。
「なんで日本人の男はナンパしてこないのかしら?このアパートの隣の部屋に、若い独身の男が住んでいるのだけど、朝ゴミ出しの時に会っても何も声かけてこないの」
「君が美人すぎて、声かけづらいからだよ」
しばらく彼を見つめる。
「プログラムによって確率論で計算されて出てきた言葉と分かっていても、悪い気はしないわ」
彼女はパスタを食べ終わると、グラスのワインをクッと一気に飲み干す。少し顔が火照る。
それから立ち上がると、テーブル横のベッドに腰掛ける。
「私、前からずっとあなたに言いたかったことがあるの」
「何?」
「ありがとう、って」
彼は不思議そうな顔をする。
「紛争中に初めてあなたに会って、こういう考え方、こういう生き方をして良いんだって分かって、世界が広がった。キリスト教ってすごく保守的でどこか窮屈で、それまでその価値観の中で生きてきたんだけれど、私の居場所はここじゃない、どこか他にもっと私に適した場所があると思ってた。でもそんな所は無くて、諦めかけていた。そんな時にあなたの発する言葉や行動が全て新鮮で、私の知らない外の世界はもっとダイナミックで、自由で、公正で、限りない可能性があるって思えた。あなたの言葉や行動は結局機械が計算したものだったけれど、あの時の私には必要なものだったの。例えるなら酒やタバコみたいなもの。身体に悪いと分かっているけれど、身体が必要としているから与えると心が安らぐみたいな。私はあなたと出会って救われた。だから、ありがとうって言いたかった」




