新婚夫婦
涼は台所へ行き、ソフィアの指示でサラダを作る。レタスを千切ったりトマトを切ったり。その横で彼女は鍋で湯を沸かし、パスタを茹で始める。
「こうやって一緒に食事を作っていると、新婚夫婦みたいだね」
涼がそう言うと、ソフィアはムッとして彼を睨みつける。
「僕は過去の記憶が無いんだけれど、僕らは確かナゴルノ・カラバフで出会ったんだよね。紛争中に」
「・・・」
「僕は敵だった?それとも味方?どんなだった?」
「楽しかった」
「ん?」
「いえ、何でもないわ」
彼女は一瞬過去を懐かしむような表情になったけれど、またすぐに無表情に戻る。しばらくの沈黙の後、彼は続ける。
「結局、その紛争はどうなった?君の故郷は」
すると彼女は急に明るい表情になった。今まで何を聞いても無視かきつい調子で一言二言しか答えなかったのに、急に饒舌になる。
「それが解決したの、アメリカの仲介で。全く戦闘も無しに。過去に武力衝突も起こった両国間なのに。それが交渉で解決できるなんて、世界史でも珍しいことだと思うわ」
「どうやって?」
「アルメニアとアゼルバイジャンの間の紛争地帯、ザンゲズル回廊を99年間アメリカが租借することになったの。だから両国が直に接する範囲が大幅に減るし、両国間に全く歴史的に無関係なアメリカが存在して紛争理由もなくなるし、良いことずくめなの。アメリカにとっては火中の栗を拾うようなことなのに。アメリカは偉大な国だわ。それまでは歴史の浅い無教養の国とバカにしていたけれど、私は見直したわ」
「へえー、そうなんだ。でもバカにしていた?なんで?」
「私は以前モスクワに留学していたことがあるけれど、ロシア人はみんなアメリカはお調子者のイワン、つまりバカだと言っていたわ。2011年のアメリカ・イラク戦争のことを指しているの」
「あー、それは僕もネットの記事で読んだことがある。イラクと戦争してフセインを倒したけれど、大量破壊兵器が無かったという話だよね」
「そう。結局隣のイランの影響力は増えるし、イラクからの移民がアメリカに殺到するし、イスラム国は誕生するし、良いことは何もなかった。だからロシア人はみんなアメリカをバカにしていた。それは日本人もそうじゃない?」
「そうかなあ?日本はアメリカ支持だったらしいから、あまりそういう記事は読んだことないけれど」
「その前の話よ」
「その前?」




