太客
馬渡が電話を切ると、すぐに再び彼のスマホに着信がある。
彼は画面を確かめ、渋い顔をして嫌々通話に出る。
「おうー、金のあてはできたかー?」
スマホの向こうからガラの悪い声が大きく響く。
「すまない、もう少し待ってくれ」
「いつまで待たせるんだよー、コラァ。また、痛い目合いたいんか?」
「動画の再生回数が増えてきているんだ。このまま行けばきっと返せる。いや、返す」
「そんなこたぁーどうでも良いから、さっさと耳そろえて返せ。ボケ」
相手は言いたいことを言うと、ブチっと通話を切る。
馬渡は一人旅館の椅子に座りながら、頭を抱える。彼は妹の入院費の支払いのために、街金からかなりの額を借り入れていた。当然返済期限までに返済できず、追い貸し追い貸しの繰り返しになり、債務が雪だるま式に膨れ上がっていた。
それで稼げると聞いてホストになったけれど、たいして稼げない。ホストは完全な歩合給だから、太客が付くかどうかで収入が大きく影響を受ける。彼の見た目は恵まれている方だったけれど、見た目だけが良いホストはいくらでもいる。性格が良いホストもいくらでもいる。太客が付くかどうかのポイントは2つ。相手と相性が合うか、と会ったタイミング。運に左右される。そしてまだ彼には太客がいなかった。
太客の多くは風俗関係の女性たちだ。そして彼女たちのほとんどがコミュ障だった。逆に言うと、コミュ障でなければ昼職に就いている。男性と正常な関係を築くのが苦手なため、でも誰かと話さないと孤独感に押しつぶされてしまうため、ホストという金で疑似人間関係を維持できる空間に癒しを求めてきていた。
ごく稀に主婦も来店する。ただ普通の主婦には出費が大きいので、ある程度裕福な家庭の主婦だった。主に成功した自営業者の妻たちだ。反対に財閥系の企業や大企業の社員の妻でホストにはまる女性はいなかった。大きな集団に所属しているというアイデンティティーが心の砦になっているのだろう。
そんな中、馬渡の店でひときわ目立っている太客がいた。同僚ホストの太客で新宿の寺の僧侶の妻と名乗っていた。彼女はとても太っ腹で毎回シャンパンタワーを注文し、彼女の担当ホストは店で売り上げNo.1だった。
彼女と直接話したのは数回で、同僚ホストのヘルプで入ったときのみ。だから彼女がどういう心理状態で何をホストに求めているかは分からない。聞くところによると、JR新宿駅前にかなり広い地所があり、オフィスビルを建てて賃貸しているが、宗教法人だから税金がかからなかったり低かったりして、毎月使いきれない程の収入があるらしい。




