優良店
「僕、他にもバイトとかして、忙しいんだ」
「どんなバイトですか?」
「定期的なのは塾の講師だけど、単発でビラ配りや夜は工事現場の交通誘導員とか」
「それだけ働けば十分じゃないですか?」
「いや、全然十分じゃない。もっと稼がないといけないんだ」
「なぜですか?」
彼は続けようか迷い、しばらく黙っていたが、
「妹がいてね」
――女性慣れしていると思ったのは、それが原因だったのかも――
「今、入院しているんだ」
私はこの続きを聞いていいのか迷う。多分、他人に知られたくない内容が含まれていそう。
だから、こちらからは何も言わなかった。彼が続ければ聞いても良いけど、このまま話題を変えても良いかもと思う。
「白血病、それも特殊なもの」
あー、と私は小声を上げる。治るかどうか分からないけれど、難病であることには違いない。
妹の病気は、標準医療では改善しないこと、先進医療が必要だけれどそれは保険が利かず自己負担になること、だけど先進医療を受けないと余命が限られると医師から言われたことなどを話してくれた。
「普通のバイトだと稼げる額に限りがあるから、最近ホストを始めた」
「えっ、ホスト?」
「そう。ホストクラブのホスト」
私は一瞬身構える。ホストってネットでしか知らないけれど、悪いイメージしかなかったから。私が黙り込んだのを見て、彼は慌てて続ける。
「でも、うちの店は優良店で恋愛営業は禁止だから」
「・・・」
「料金も良心的だし付け払いは禁止だし。女性向けの心理コンサルタントみたいのかな」
「コンサルタント?」
「そう。女性って、みんな心細いんだよ。社会的に弱者だし、常に見定められる側だし、なかなか友達作りにくいし。そんな人たちの愚痴を聞いてあげて、寄り添ってあげるのが僕らホストの役目なんだ。と言うか、ほとんどの店はみんなそんなもんだよ。問題を起こすのはごく一部の悪徳店だけで、そのせいで全部が誤解されている。だからホストにとって良いお客さんとは、もう店に来なくなる客なんだ。ホストに愚痴を聞いてもらわなくてもやっていけるようになったということだから。お客さんが孤独感を感じないようになってホストクラブに来なくなるようにするのが、僕らホストの役目」
「そういうものなのですか」
分かるような、分からないような。でも馬渡さんは世間一般の悪いイメージのホストではない気はする。妹のためにそこまでするなんて、本当に偉い。
「医療費は両親が出してくれないんですか?」
そう聞くと、一瞬間が空いてから彼は答える。
「僕、親がいない」
あー、と再び小声を上げる。




