裏の顔
「とんでもない。そんなことは指示しておらんよ。確かにホワイトストーンは今、南青山の再開発で揉めていて、アメリカ側の責任者がいろいろ対策を練っておるとは聞いているが、それらは全てあくまでもビジネスの上でのことじゃ。ホワイトストーンがわしらの資産を運用していることは別に知られても構わんことだろ。実際アメリカ国債の大部分は日本の金融機関がファイナンスしておるのは常識じゃろ」
「それを聞いて安心しました。いや、大変失礼しました」
場の雰囲気がふっと和む。
「ただ、気になるな。その記者の殺害理由は?」
「不明です。地元警察は強盗と見ているようですが」
「さっき、わしの指示と疑ったのは、何でじゃ?ホワイトストーン以外に物部やその関係者がその記者を殺害する理由でもあるのかね?」
「神主さんはまだ就任してから日が浅いので、物部一族の裏の顔をあまりよくご存じではないかもしれないのですが。過去にいろいろ表にできないことをやってきています。過去と言っても歴史の教科書に載るような遠い過去だけでなく、つい最近も含めてですが」
「なぜ、そんな必要があるんじゃ?」
「すべては我々の利権を守るためです」
神主は考え込む。
「利権を守るために、殺人が必要なのかね?」
「物部一族には神主さんのように代々神職の方もいらっしゃれば、代々ビジネス専門の一族、政治専門の一族もいますが、中には裏工作専門の一族、暗殺専門の一族もいる訳で、彼らにとっては今回の記者のような存在は一族の存亡に関わります」
考えてみれば思い当たる節はいくつかある。綺麗ごとだけで物部家が2000年も生き延びてきたとは思ってはいない。だがその現実をまじまじと目の前に叩きつけられる覚悟は出来ていなかった。
「背景は分かった。では、その子はなぜ、その記者のもとへ行ったんじゃ?」
「それについては、目下調査中です」
神主は頭を抱える。いろいろ混乱してきた。
「何が起こっているんじゃ?」
武藤は分からないという風に頭をわずかに傾ける。
「念のため、神社幹部全員の金の流れなど、軽く見てもらえんか?」
「承知いたしました」
直観的に、石下神社の内部の者が関わっている気がしたからだった。身内を疑うのはなんとも重苦しい。彼は疲れたように深々と執務机の椅子に腰を沈めた。




