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水銀鉱山

「かつて古代、何で、奈良が都やったか分かるか?」

「さあ?」

小嶋は突然話題を変えられ、驚き顔で両手を空に広げる。

「吉野の里に水銀鉱山があったんや。中国は古代から20世紀の清朝まで銀本位制で、銀こそが一番価値のある物質やったし、さらに持ち運びに便利な水銀は重宝されたんや。吉野で採掘された水銀は奈良のここ、纏向で集積され、大阪の難波港から瀬戸内海を通って中国に輸出されたんや。やから渡来人や中国の戦乱から逃れた難民は奈良に集まってきたんや」

小嶋は聞いている。

「その水銀利権、採掘から流通を独占したのが、物部一族や。かつての卑弥呼も物部一族やったし邪馬台国は第1次物部王朝や。その後政変などいろいろあり政権の座から降りることになったが、水銀利権から物流など商圏を広げ古代から中世、近世にかけて物部宗家が日本経済を実質的に支配してきたんや。戦後は財団形式で法的にも保護され、株式市場の4割、銀行与信を含めると日本経済の7割を支配しとる。そしてアメリカに表向きはSPAC、特別買収目的会社出資という形でホワイトストーン、The Whitestone Groupを設立、海外投資も始めた。なぜ直接日本から投資せーへんかって?アメリカを経由しアメリカ資本となることにより、米軍の保護を受けられるからや。無法地帯に投資して地元勢力に乗っ取られてしもたら、日本資本やったら泣き寝入りするしかしゃーないけど、アメリカ資本なら米軍の海兵隊なり特殊部隊が出動して、利権を取り返してくれるやろ。実際に2006年、わいらと関係ない日本の大手商社がロシアのサハリン沖で液化天然ガスPJ、サハリン2を立ち上げたが、完成直前に環境問題を口実にプーチン政権によって乗っ取られてしもた。おかげでその商社連合は数千億単位の赤字を計上する羽目になった。ここから得た教訓はならず者国家への投資はアメリカを一枚咬ませる必要があるっちゅうことや」

「・・・」

「しかしそれはアメリカ側へ知られたらあかん。なぜなら我々のビジネスのために若い米兵の命を利用しているっちゅうことやからや。今回の元新聞記者のホワイトストーンへの取材は何としても止めさせなあかん。ホワイトストーンの実体がわいら石下神社ちゅうのがばれたらあかんのや」

「・・・」

小嶋は黙ったままだったが、しばらくして恐る恐る聞いた。

「で、どうしろと?」

厚東は無言でうなずく。

「だが、くれぐれも神社内の組織や金は使たらあかん。先代の神主は利権のためにヤタガラスとか古代からの工作部隊を使うことに躊躇なかったけど、今の神主は裏工作を嫌っとる。できるか?資産管理室はもともと神社の宝物や土地などの管理がメインの仕事やったけど、今ではそこから派生して日本文化継承財団の財産管理やそれらを管理するための情報収集手段としてヤタガラスも指揮しとるやろ。でもそれらは皆神社内の組織や。それらを使うと神主や神社幹部連中に知られる」

「そこは大丈夫だ。私の個人企業が以前タイのバンコクのモノレール建設工事に関わった際に、世話した人物がいる。フットワークが軽くちょうど良い。そいつを使う」

「足は付かへんやろうな?」

「ああ、終わったらすぐに羽田に送る」

コンッコンッ。

その時、ドアをノックする音がし、大広間の客の一人が顔を出す。

「ああ、ここにいた。厚東弁護士さん、そろそろ挨拶をしてほしいと神主さんから言われまして」

彼とともに、厚東は何食わぬ顔で部屋から出て行き、小嶋はさっそくポケットからスマホを取り出すとどこかへ電話をかけた。


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