遺伝子検査
3カ月前のある日、家で夕食後、いつものようにSNSをつらつらと眺めていると、無料遺伝子検査の広告が、流れてきた。
“将来の病気の可能性を診断”
“栄養状態を診断し、正しい食生活をサポート、ダイエットにも効果的”
“あなたの性格は遺伝かも?親譲りの性格傾向を測定”
これらの宣伝文句の中で私が惹かれたのは、2つ目の”ダイエットにも効果的”の文句。私は決して太っている訳ではないけれど、でもスタイルが良い方でも無くて、出来ればもっとスラっとしたきれいなプロポーションになりたい。それは多分全女性の永遠の願望だろう。人によって太りやすい、太りにくいの傾向があるのは感覚的に知っているけれど、自分がどうなのか、努力して努力の甲斐があるのか、つまり努力して報われるのか努力しても遺伝的に無理なのか知りたいと、以前から漠然と思っていた。
そんな時に遺伝子検査の広告が目に留まり、しかも無料なのでためらう理由はない。
その場で、ポチっ。
3日ほどして検査キットが郵便で届く。
プラスチック製の指先に被せる指ぬきみたいな形のものと、綿棒1本。説明書には、小指を指ぬきの奥まで差し込み小さなボタンを押す、と書いてある。”小さな針で採血します。全く痛くありません。”
説明書を信じて恐る恐る小指を入れ、ボタンを押す。チクッとしたような気がするけれど、まったく痛くない。指ぬきの上の赤い窓が緑に変わり終了。次は綿棒で、説明通りに頬の内側をぬぐいケースに入れる。
説明書には解析の結果がどのようにレポートとして返信されてくるか事細かに例示されていた。そして一番下に個人情報保護の説明。サンプルとして個人を特定できない形で遺伝子データを第三者に提供する可能性があります、と。この文面自体はいろんな所で時々目にするものだし、個人が特定できないのであれば良いかなとスルーした。
でも、更にその下に更に小さな字で書いてある一文を見逃していた。
“公共の福祉に資する場合(RH-型や白血病ドナー合致など)は、個別に連絡させていただくため個人を特定させていただく場合があります”
検査キットを返送して1週間後、登録していたSNSのIDの方に結果発送の通知が着信する。同じタイミングで結果の封筒が届く。私は早速開ける。
健康リスクの方は特に問題なし。栄養状態も特に問題なし。
肝心のダイエットに関しては、体質的にレベル3で太り難くくもなく易くもないという安心ではあるけれど物足りない結果。
性格診断はちょっといびつな六角形。社交性、慎重性、勤勉性など6項目で六角形の枠があり、全部の項目が全て平均だと正六角形になる。私に欠けている項目は開放性。知的好奇心など新しいことに対する興味が遺伝的に低くなるらしい。
――でも私、涼くんというアンドロイドを家に泊めている――
少し特殊な事情があり、私は完全に人と見間違えるような精巧なアンドロイドを一人?家に泊めてあげている。彼は見た目は10代後半に見え、とても格好良くて優しい。居候させてあげてるから開放性はあるつもりだ。
他の結果は全体的に半分当たっていて半分外れている感じ。よく読んでみると、実際の体質、性格は遺伝だけではなく環境の影響も受けますと書いてあり、ごく当たり前のことが書かれていて、私は納得する。
――実は私に人知れず特別優れた能力や素質があったとか、そんなことは現実にはありえないよね――
私は封筒を机の奥に仕舞い、存在自体を忘れてしまった。




