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神幸祭

「君みたいに優しい人ばかりだったら、世の中はきっと平和になる」

彼はそう言った。

その透き通るような澄んだ瞳を見ていると、お世辞を言っているようには見えなかった。

――んっ?でも、みんな今の私と同じような状況だったら、同じことを言うと思うけれど――

私はただ思ったことを口にしただけで、特別すごいことを言ったつもりはなかった。だから、彼が何を指して優しいと言ったのか分からなかった。

私達の前の参道を、白い神祇装束の集団が雅楽に合わせてゆっくりと一糸乱れぬ速さで歩いていく。しばらくすると、行列の人の服の色が赤やら黄色に変わる。皆、烏帽子と呼ばれる細長い冠を被っている。行列の所々に深緑色の斎服の人が一緒に歩いていて、紙吹雪を撒いている。境内の鬱蒼とした森の中の参道には、たくさんの観光客が等間隔で並び、行列に向けて一斉にスマホのカメラを向ける。


ここは武蔵一宮氷川神社、私の家のすぐ近く。

今日はそこの神幸祭。御神霊と呼ばれる神輿を本殿から500mくらい離れた敷地内の池まで運ぶ。

「すぐ近くに住んでいたのに、このお祭りに来たの初めて」

「意外と地元の人は、そうだよね」

彼は愛想良くうなずく。都内の大学の大学生であり、人気YouTuberでもある。

「YouTubeには、どのくらいの頻度で動画をアップするのですか?」

「多い時は3日に1度くらいかな。編集が結構大変なんだよ。だからそう頻繁にはアップできないね。でも少ない時でも月に1回は上げるようにしている。そうしないとフォロワーが減ってしまうんだ」

行列が過ぎ去り、人がまばらになった境内を2人で肩を並べてゆっくり散策する。

「君にYouTubeに出てほしい」

突然、彼は私の方を向き、手を差し伸べて言った。

彼、馬渡凛久さん、まわたりりくさんと、私が知り合ったきっかけは3か月前にさかのぼる。


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