慰労会
石下神社では毎年秋に、豊穣祭という収穫高を神に感謝する神事が行われる。石下神社の物部一族や神社幹部、また神社傘下の分家、末家、摂家やその氏子が勢揃いする。
そして豊穣祭の後は一族や幹部が社務所内の畳敷きの大広間に集まり慰労会が開かれる。今それが行われようとしていた。
上座にある床の間に、卑弥呼の刀剣である”布都御魂大神刀”と”布都斯魂大神刀”が鎮座され、それを背に神主のお膳が置かれている。広間の左右にずらっと、中央を向いて一列にお膳の列があり、そこに物部一族や神社幹部、有力分家がすでに正座して並んでいる。
しばらくすると、神主が登場し、お膳に付く。
「いや、待たせたな」
軽く今日の豊穣祭の苦労のねぎらいを述べ、神前酒の杯を片手で挙げる。
「物部一族の未来永劫の発展を期して。乾杯」
その言葉とともに、宴会が始まる。
最初のうちは皆、堅く畏まっていたものの、酔いが回ると段々打ち解けてくる。何人かはお酌して回り、広間のあちこちで雑談が始まり、時々笑い声も混ざり始める。
石下神社の資産管理室長、小嶋構蔵も慰労会に参加して、隣の席の分家の一人と雑談をしていた。ふと見上げると、かなり上座の厚東顧問弁護士が席を立ち、多分トイレだろうか、部屋から出ようとしてる。
「失礼」
小嶋は分家との雑談を遮ると、席を立って部屋から出て廊下で厚東を追う。
「ちょっと」
小声で彼は厚東に後ろから声をかけると厚東は振り向く。
小嶋が廊下の隣の小さな空きの会議室を示すと、うなずいて二人で部屋に入りドアを閉める。近くにあったソファーに適当に座る。
「南青山の件なんだが」
小嶋が口を開くと、厚東は堅い顔をして聞き耳を立てる。
「後ろに我々がいるのが、ばれそうだ」
「はぁ!?なんやそれ。あの新聞記者は解雇したはずやろう?」
「それが今度はYouTuberとして個人で暴くつもりらしい」
「何考えてんねん、あのねえちゃん」
「米投資会社ホワイトストーンが南青山のUR跡地再開発に絡んで、アメリカ大使館経由で暴力団対策基本法の改正の圧力を日本政府にかけているのを、すっぱ抜く気らしい」
「なんで、そこまでするんや?」
「アメリカ政府が自民党の旧清和会系の議員を通して、暴対法改正を働きかけるのが、内政干渉であると受け取っているようだ」
厚東は腕を組んで黙り込む。




