ネットの可能性
旅行先の興味より、だんだんと彼女本人への興味が湧いてくる。
――本職としてYouTuberしているのかしら?それとも本職は別にあって、趣味で旅紀行をネットに挙げているのかしら?――
普段の生活の中で私が思いつく職業といえば、店の店員などしか思い当たらないから、このように旅をしながら生活できるという生き方にあこがれる。
私はその動画に”いいね”をして、”石下神社、良かったです。招待されましたので、今度行きます”とコメントする。招待されたと書くのは、何か注目されるようなことを書けば目に留めてもらえるかもしれない。そうしたら馬渡さんみたいに私に連絡くれるかもしれないという淡い期待があったから。
翌日スマホを見てみると、なんと昨日見た愛国紀行チャンネルの女性から返信が来ている。
“視聴ありがとうございます。ところで招待とはどういう関係でしょうか?”
私は一連の経緯、卑弥呼の子孫であったことや石下神社から会いたいと言われていることを要点だけをつまんで簡潔に返信する。今まで人から注目される経験なんてなかったから、卑弥呼の始祖であるということを誰かに言いたくてしかた無かったけれど、学校では変に注目を浴びるのはまずいのでリアルの友達には言いづらい。
少しすると、返信が届く。
“あなたがあの動画の方ですね。見てます、リクチャンネル。私と同類のチャンネルなので、実は時々参考にさせていただいています”
それから何回かDMのやり取りをする。
“行動力ありますね。お仕事されている方ですか?”
私からの質問に、
“元新聞記者で、今はYouTuber兼フリーライターです”
との回答だった。
――元新聞記者だったから、話の構成がうまいんだ――
愛国紀行チャンネルの動画は、見てるだけですんなりといろんな説明が頭に入ってくる。最初に大まかな概要や背景から入って、だんだん細かい説明に移るというその構成が巧みで、元新聞記者だから文章の構成の訓練を知らず知らずのうちに受けてきたからなのかもしれない。
馬渡さんにネットを通して会い私の動画がバズって、ネットの可能性に目覚めたから、この女性YouTuberとも会ってみたい気がした。
――ネットでは意外と良い人に出会える――
そんな風に思っていたので、私は勇気を出して今度は私の方から会ってみたいとDMしてみた。石下神社について事前にいろいろ教えてほしいと。
“良いですよ。自宅兼オフィスで良ければ、来られますか?”
“ありがとうございます。ぜひ伺いたいです”
私は急いで返信する。
それから、何回かDMする過程で、赤羽に住んでいるということを聞く。赤羽は都内都区部の北端で埼玉県のすぐ南隣だから、私の家から近い。
その週末つまり石下神社へ行く2週間前の土曜日に伺う約束を取り付け、涼くんに一緒に来てもらうことにする。
“では、今週末の土曜日のお昼過ぎ頃に伺います”
と返信すると、OKスタンプが来る。
馬渡さんとの出会いはネット経由で、それは彼の方から声をかけてくれたのだけれど、自分から声をかけて知らない人と会うのは初めて。
――こんな簡単に人と会えるんだ――
ちょっと不思議な感覚だった。友達を作るのはなかなか難しいのに、ネットだとすぐに会える。もちろん彼女は神社など日本古来の場所を旅紀行しているYouTuberで、私が卑弥呼の子孫で彼女から見たら取材対象だからかもしれない。
でも自分から声をかけてその人と会えるというのは初めての経験で、嬉しい。私はネットの可能性を感じていた。




