養子
「次に該当の女性についてです。名前は矢野比呂美、17歳。さいたま市大宮区在住で地元の寿能高校2年です」
ここで室長は間を置く。
「彼女には頼れる親がいません」
一瞬全員沈黙する。口を開いたのは神主だった。
「どういうことだ?」
「彼女が幼少の時に両親は離婚、母方に引き取られ母子二人で生活してきたものの、半年ほど前に母が病死。身内もいないようで現在一人暮らしのようです」
「じゃ、どうやって生活している?」
「奨学金と、放課後のアルバイトで生計を立てているようです」
神主は両手を顔に当てる。
「おー、また何と気の毒な」
厚東がゆっくりと話し出す。
「でも考えようによっては、わいらには好都合かもあらへん。そうや」
と言って神主の方を向く。
「いっそのこと、君の養子にしてはどうや?そうすれば卑弥呼の血が物部一族に復帰するわけで、完璧やろ」
神主は大きく手を振る。
「そんな、見ず知らずの男の養子になんか、向こうだって嫌に決まっているだろう」
「別に今まで通り関東に住んでもらってても構へん。籍だけ入れてもろうたら。学費や生活費をこっちが立て替えれば、向こうだってありがたいやろう。大学に行きたいんやったら、その授業料やって」
ここで厚東は少しテンポを下げる。
「こう言うのはほんま失礼とは承知なんやけど、君は子供が出来んかったやろ。このままやと物部家の頭領は弟一族に行ってしまう。弟かその息子の方や」
「それはまだ20年も30年も後のことだろう。それに弟は優秀な奴だ。わしは一向に構わんよ」
「またそんな欲の無いことを」
しばらくの沈黙の後、神主は
「でも気の毒な子だな。確かに卑弥呼の血を引いているということはご先祖様と関りがあるわけで、わしらにとって他人ごとではない」
それから彼は室長の方を向き、
「うちの関連の財団、あれ、何て言ったっけ?」
「日本文化継承財団ですか?」
「そうそう、その関連で何か役に立ちそうなものは無いかね?」
「無利子の貸与型の奨学金ですとか、場合によっては住み込み可能な児童養護施設ですとか。調べてみれば、他にもあるかもしれません」
「本人の希望次第だが、何か手を差し伸べてやっても良いかもしれんな」
と3人はしばらく話し合いを続けた。




