第3話 約束したのに
誰かの後悔が、まだ終わっていない音がした。
チリ。
チリ。
耳の奥に残ったその音は、美術室を出ても消えなかった。
一ノ瀬澪は、最後まで鏡の前から動かなかった。
俺が「相川さんと話した方がいい」と言ったあとも、彼女はただ古い姿見を見つめていた。
雨宮は何も言わなかった。
いつもなら、いや、まだ知り合って二日目だから“いつも”なんて言えるほどの関係じゃないのだけれど、それでも雨宮なら何か一言添えると思っていた。
けれど、彼女は黙っていた。
一ノ瀬が自分で言葉を選ぶのを待っているみたいに。
「……少し、考えさせて」
やがて、一ノ瀬はそう言った。
その声は、さっきよりもずっと小さかった。
「分かった」
雨宮が答える。
俺も頷いた。
美術室を出る直前、もう一度だけ鏡を見る。
鏡はただ、昼の光を受けて鈍く光っていた。
泣いている一ノ瀬も、怒っている誰かも、もう映っていない。
ただの古い鏡。
そう見えるのに。
俺には、まだその奥に何かが沈んでいる気がした。
*
「それで? 秘密イベントはどうだった?」
教室に戻るなり、四谷蓮がにやにやしながら聞いてきた。
俺は席につきながら、弁当箱の蓋を開ける。
「秘密イベントじゃない」
「じゃあ何イベント?」
「道に迷った一年生が美術室にたどり着いたイベント」
「地味だな」
「地味でいいんだよ」
「でも三組の一ノ瀬さんがわざわざ呼びに来たんだろ? 絶対地味じゃないじゃん」
四谷は焼きそばパンをかじりながら、興味津々という顔をしている。
こいつは本当に、人の事情に鼻を突っ込むのがうまい。
でも、不思議と不快ではなかった。
「一ノ瀬って、有名なのか?」
「有名ってほどじゃないけど、もう名前は聞いたな。美術でなんかすごいらしい。中学の時に賞取ってたとか」
「詳しいな」
「人間観察が趣味だから」
「それ昨日も聞いた」
「大事なことは何度でも言うタイプ」
四谷はそこで少し声を落とした。
「で、本当に大丈夫なのか?」
「何が」
「佐倉、さっき戻ってきた時、顔色悪かった」
俺は箸を止めた。
さっきまでの軽さが嘘みたいに、四谷の目は真面目だった。
「そうか?」
「そう。あと雨宮さんも、ちょっと変だった」
「雨宮も?」
「うん。なんか、笑ってるけど笑ってない感じ」
俺は雨宮の席を見る。
彼女は女子数人と昼食を取っていた。
楽しそうに笑っている。
少なくとも、周りからはそう見える。
でも一度そう言われると、確かに少しだけ無理をしているようにも見えた。
「佐倉」
「何」
「面倒なことなら、早めに巻き込めよ」
「誰を」
「俺を」
四谷は当然みたいに言った。
「何でお前を巻き込むんだよ」
「友達だから?」
「昨日会ったばかりだろ」
「友達になるのに日数制限ある?」
「ないけど」
「じゃあ友達でいいじゃん」
四谷は笑った。
その軽さに、少し救われた気がした。
俺は弁当の卵焼きを口に入れながら、曖昧に頷く。
「考えとく」
「それ、だいたい巻き込まないやつの返事だな」
「よく分かってるじゃん」
「分かりたくなかった」
四谷は大げさに肩を落とした。
その時、教室の入り口から女子の声が聞こえた。
「澪、ここにいるって聞いたんだけど」
声の方を見る。
そこに立っていたのは、知らない女子だった。
背は雨宮より少し低い。
短めの髪が、動くたびに軽く跳ねる。
表情は明るいが、目だけが少し焦っていた。
同じ一年のリボン。
たぶん三組。
「あれ、澪いない?」
彼女は教室を見回して、首をかしげた。
俺はその顔を見た瞬間、鏡の中の映像を思い出した。
床に散らばった絵の具。
破れたキャンバス。
そして、泣きながら笑っていた女子。
――澪が、私の気持ちを勝手に決める方が嫌だ。
間違いない。
この子が、相川莉子だ。
「あ、雨宮さん」
相川は雨宮を見つけると、ぱっと表情を明るくした。
雨宮が顔を上げる。
「相川さん?」
「澪、こっち来てない? 昼休み、急にいなくなっちゃって」
「一ノ瀬さんなら、さっき美術室にいたよ」
「やっぱり」
相川は小さく息を吐いた。
「また一人で描いてるのかな」
その声には、怒りよりも心配が滲んでいた。
俺は思わず聞いてしまう。
「また?」
相川がこちらを見る。
「えっと」
「佐倉悠真。一年二組」
「ああ、昨日澪が言ってた人?」
「一ノ瀬が?」
「うん。変な男子に見られたって」
「言い方」
相川は少し笑った。
明るい笑い方だった。
鏡の中で泣いていた姿とは、まるで違う。
「私は相川莉子。一年三組。澪と同じクラス」
「知ってる」
「え?」
「あ、いや」
しまった。
相川の名前を知っている理由が、普通には説明できない。
俺が言葉に詰まると、雨宮が自然に間に入った。
「一ノ瀬さんから聞いたの。相川さんと一緒にコンクールに出るって」
「ああ、それ」
相川は嬉しそうに笑った。
「そうなんだよ。六月の校内コンクール。まだ入学したばっかりだけど、一年でも出せるらしくて」
「楽しそうだね」
「うん。澪と一緒に出るの、中学の時から約束してたから」
約束。
その言葉に、俺は反応してしまう。
相川はそれに気づかず、続けた。
「澪ってさ、すごいんだよ。ずっと絵が上手くて、何描いてもちゃんと澪の絵になるっていうか」
「相川さんも絵を描くんだろ?」
「描くよ。でも私は、澪ほどじゃない」
相川は当たり前みたいに言った。
でも、そこに卑屈さはなかった。
「悔しくないのか?」
つい聞いてしまった。
相川は少し目を丸くして、それから笑った。
「悔しいよ」
「え」
「当たり前じゃん。めちゃくちゃ悔しい。隣にいると、自分の下手さが分かるし。澪が褒められると、すごいって思うのと同じくらい、悔しいって思う」
その言葉は、鏡の未来とは違って聞こえた。
未来の相川は、一ノ瀬を責めていた。
でも目の前の相川は、自分の悔しさをちゃんと言葉にしている。
「でもさ」
相川は少し照れたように笑った。
「それでも、一緒に描きたいんだよね」
俺は何も言えなかった。
「澪がいると、自分ももっと描きたいって思えるから。負けたくないって思えるから。だから、コンクールも一緒に出たい」
「……そうか」
「うん」
相川は教室の外を見る。
「でも最近、澪がちょっと変でさ。急に一人で描き始めるし、話しかけても上の空だし。昨日なんて、コンクールの話したら変な顔された」
鏡を見たからだ。
一ノ瀬は未来を恐れて、相川から距離を取ろうとしている。
でもその行動が、相川を不安にさせている。
鏡に映った未来は、もう始まっているのかもしれない。
「ねえ、雨宮さん」
「うん」
「澪、何か言ってた?」
雨宮は少しだけ迷った。
それから首を横に振る。
「私からは言えない」
「そっか」
相川は残念そうに笑った。
でも、怒らなかった。
「じゃあ、本人に聞く」
そう言って、彼女は教室を出ようとした。
その背中に、雨宮が声をかける。
「相川さん」
「ん?」
「一ノ瀬さんが、もし変なことを言っても」
雨宮は言葉を選ぶように、一瞬だけ間を置いた。
「それが、相川さんを傷つけたくないからだったとしても」
「うん」
「ちゃんと怒っていいと思う」
相川はきょとんとした。
それから、少し笑った。
「雨宮さんって、変わってるね」
「よく言われる」
「でも分かった。怒る時は怒る」
相川は軽く手を振って、教室を出ていった。
その背中が見えなくなってから、俺は雨宮を見る。
「言い方が具体的すぎないか」
「そうかな」
「一ノ瀬が相川を傷つけたくなくて変なこと言うって、ほぼ分かってる言い方だったぞ」
「佐倉くんも、そう思ってるでしょ」
「それは……」
そうだ。
俺も同じことを思っていた。
一ノ瀬は相川を傷つけたくない。
でも、そのせいで相川を傷つける方向に進んでいる。
「雨宮は、こういうのに慣れてるのか」
「慣れたくはなかったよ」
雨宮は小さく言った。
その声は、昼休みの教室のざわめきに紛れそうなくらい小さかった。
*
放課後。
俺はまた旧校舎へ向かっていた。
理由は分かっている。
見なかったことにできなかったからだ。
昨日、雨宮に言った言葉が自分に返ってくる。
見たものを見なかったことにはできない。
あんなことを言ってしまった以上、放っておく方が気持ち悪かった。
美術室に近づくと、例の音が聞こえてきた。
チリ。
チリ。
昼休みよりも、さらに大きい。
扉の前で足を止める。
中から声がした。
「なんで?」
相川莉子の声だった。
「なんで急にそんなこと言うの?」
俺は反射的に扉の横に身を寄せた。
盗み聞きだ。
よくない。
そう思ったが、足が動かなかった。
「ごめん」
一ノ瀬の声がする。
「やっぱり、コンクールは一緒に出られない」
「理由は?」
「私が、出たくなくなった」
「嘘」
相川は即座に言った。
「澪、嘘つくの下手すぎ」
「嘘じゃない」
「じゃあ、私の顔見て言って」
沈黙。
それだけで、一ノ瀬が相川の顔を見られていないことが分かった。
「何かあった?」
「何もない」
「何もない人は、そんな顔しない」
「莉子には関係ない」
その言葉が出た瞬間。
美術室の中の空気が変わった。
俺は、あ、と思った。
言ってはいけない言葉だ。
「関係ない?」
相川の声が低くなる。
「一緒に出ようって言ったの、澪だよね」
「だから、ごめんって」
「謝ってほしいんじゃない」
「じゃあ、どうすればいいの」
「本当のこと言ってよ!」
相川の声が廊下まで響いた。
俺は思わず身を固くする。
「澪、最近ずっと変だよ。私が何かしたなら言って。私が下手だから嫌になったなら、それも言って。勝手に一人で決めないでよ」
「違う」
「じゃあ何が違うの!」
「莉子が傷つくのが嫌なの!」
一ノ瀬の声が、初めて大きくなった。
美術室が静まり返る。
「私が出たら、莉子は傷つく。私だけが選ばれて、莉子は落ちて、絵をやめる。そうなるかもしれない」
「……何、それ」
相川の声が震えていた。
「なんでそんなこと分かるの」
「分からない。でも」
「分からないのに決めたの?」
「違う。私はただ」
「私が落ちるって、澪が決めたの?」
「違う!」
「私が絵をやめるって、澪が決めたの?」
俺は息を止めた。
鏡の中で見た未来と、同じ方向に進んでいる。
澪のせいだ。
約束したのに。
頭の中で、あの口の動きがよみがえる。
「……そんなに私のこと、信用してないんだ」
相川の声が聞こえた。
その声は怒っているのに、泣きそうだった。
「莉子」
「澪が出ないなら、私も出ない」
鏡で見た言葉。
現実の相川が、それを口にした。
チリ、と音が鳴る。
今までで一番鋭く。
扉の向こうで、何かが倒れる音がした。
俺は考えるより先に、扉を開けていた。
「一ノ瀬!」
美術室の中では、一ノ瀬がキャンバスの前で立ち尽くしていた。
相川莉子は涙を浮かべたまま、こちらを振り返る。
「……誰?」
「ごめん。盗み聞きしてた」
最悪の第一声だった。
けれど、他に言いようがなかった。
相川は一瞬ぽかんとして、それから怒ったように眉を寄せる。
「は?」
「いや、本当にごめん」
「何それ。意味分かんないんだけど」
「俺も意味分かんない」
「もっと意味分かんない」
相川の怒りが、ほんの少しだけ逸れた。
一ノ瀬が震える声で言う。
「佐倉くん、なんで」
「話した方がいいって言っただろ」
「だからって、入ってくる?」
「入るつもりはなかった。でも」
俺は古い鏡を見る。
鏡の中に、もう一つの美術室が映っていた。
床に散らばる絵の具。
破れたキャンバス。
泣いている相川。
立ち尽くす一ノ瀬。
さっき見た未来と同じ景色。
でも、まだキャンバスは破れていない。
絵の具も散らばっていない。
まだ、完全にはそこまで行っていない。
「たぶん、このままだともっと悪くなる」
「何が」
相川が聞く。
俺は答えに詰まる。
未来が見える鏡があって、俺にはそれが見えて、一ノ瀬はそれを恐れていて、なんて説明して信じてもらえるわけがない。
でも、何も言わないわけにもいかない。
「一ノ瀬は」
俺は言った。
「相川さんを見下してるわけじゃないと思う」
「……」
「信用してないわけでもないと思う」
「じゃあ何」
「怖いんだと思う」
一ノ瀬が顔を上げる。
「相川さんが傷つくのが怖い。自分のせいで絵を嫌いになるのが怖い。だから先に逃げようとしてる」
「逃げる?」
相川が一ノ瀬を見る。
一ノ瀬は何も言わない。
沈黙が、答えみたいだった。
「澪」
相川の声は、さっきより少しだけ柔らかくなった。
「私が落ちるの、そんなに怖い?」
一ノ瀬は唇を噛む。
「怖い」
「私が絵をやめるのが?」
「怖い」
「私が澪を嫌いになるのが?」
一ノ瀬は、すぐには答えなかった。
けれどやがて、小さく頷いた。
「怖い」
相川はしばらく黙っていた。
そして、深く息を吐く。
「馬鹿じゃん」
「……」
「馬鹿だよ、澪」
一ノ瀬が肩を震わせる。
でも、相川の声は責めているだけではなかった。
「私、落ちたら普通に泣くよ。悔しいし、澪に八つ当たりするかもしれない。最悪、『澪のせいだ』くらい言うかも」
一ノ瀬の顔が強張る。
俺も息を止めた。
相川は続ける。
「でも、それで絵をやめるかどうかまで、澪が決めないで」
一ノ瀬の目が揺れた。
「私が澪を嫌いになるかどうかも、澪が決めないで」
美術室が静かになる。
相川は涙を拭って、笑った。
「私の気持ちは、私のものだから」
その言葉を聞いた瞬間。
チリ、と鳴っていた音が、ふっと弱くなった。
一ノ瀬は立ち尽くしたまま、何も言えずにいた。
俺は鏡を見る。
鏡の中の未来が揺れている。
破れたキャンバスが、元に戻る。
散らばった絵の具が、消えていく。
泣いていた相川の姿が薄くなる。
代わりに、鏡の中には今の美術室が映った。
現実と同じ、夕方の美術室。
ただ一つだけ違うのは、鏡の中の一ノ瀬が泣いていたことだ。
現実の一ノ瀬は、まだ泣いていない。
でも鏡の中の彼女は、声もなく泣いていた。
さっきとは違う涙だった。
責められる未来を恐れる涙ではなく。
ようやく怖かったと言えた人の涙。
「……ごめん」
一ノ瀬が言った。
相川は腕を組む。
「それ、何に対して?」
「勝手に決めたこと」
「うん」
「約束をなかったことにしようとしたこと」
「うん」
「莉子が、私を嫌いになるって決めつけたこと」
「うん」
一ノ瀬は顔を上げた。
「それでも、私は怖い」
「知ってる」
「莉子が傷つくのも、嫌だ」
「知ってる」
「自分だけ選ばれるかもしれないのも、怖い」
「それはちょっとむかつくけど、知ってる」
相川の言い方に、一ノ瀬が少しだけ笑った。
初めて見る表情だった。
大人びていて、静かで、近寄りがたいと思っていた一ノ瀬澪が、その瞬間だけは普通の高校一年生に見えた。
「でも、一緒に出たい」
一ノ瀬は言った。
「本当は、莉子と一緒に出たい」
相川は、少しだけ目を潤ませた。
「最初からそう言ってよ」
「ごめん」
「次勝手に辞退しようとしたら、絵の具ぶつけるから」
「それは困る」
「困って」
二人は小さく笑った。
チリ。
最後に一度だけ、音が鳴る。
でもそれは、さっきまでの痛い音ではなかった。
張り詰めた糸が、ようやく緩んだような音だった。
*
美術室を出ると、廊下に雨宮が立っていた。
いつからいたのかは分からない。
けれど、たぶん途中から聞いていたのだと思う。
「入らなかったんだな」
俺が言うと、雨宮は少し笑った。
「佐倉くんが入ったから」
「俺も入るつもりなかったんだけど」
「でも、入った」
「成り行きで」
「そういうところだよ」
「どういうところだよ」
雨宮は答えなかった。
ただ、美術室の扉を見つめていた。
中からは、一ノ瀬と相川の小さな話し声が聞こえる。
まだ完全に元通りではない。
でも、さっきまでとは違う。
少なくとも、二人は同じ部屋で向き合っている。
「未来、変わったのかな」
俺が呟くと、雨宮は少し考えてから言った。
「分からない」
「分からないのか」
「うん。未来って、たぶん一回変えたら終わりじゃないから」
「面倒だな」
「うん。すごく」
雨宮は笑った。
でもその笑顔は、やっぱり少し寂しかった。
「でも、今の一ノ瀬さんは、さっきより少しだけ未来に近づいたと思う」
「未来に?」
「ううん。今に、かな」
雨宮はそう言って、俺を見る。
「佐倉くんは、すごいね」
「何が」
「未来を見ても、未来じゃなくて、目の前の人を見るんだね」
「相変わらず意味深だな。そんな大したことしてない」
「大したことだよ」
雨宮の声が、少しだけ震えた。
「少なくとも、私には難しかった」
俺はその言葉の意味を聞こうとした。
けれど、雨宮は先に歩き出す。
「帰ろう。もう遅いし」
「雨宮」
「何?」
「お前、やっぱり何か知ってるだろ」
「うん」
あまりにあっさり認められて、俺は言葉を失った。
雨宮は振り返って、小さく笑う。
「でも、今日はまだ言わない」
「またそれかよ」
「うん。またそれ」
「いつ言うんだ」
雨宮は少しだけ空を見た。
旧校舎の窓から差し込む夕日が、彼女の横顔を赤く染めている。
「佐倉くんが、私の話を信じてもいいって思えた時」
「それ、どうやって判断するんだよ」
「私が判断する」
「ずるくないか?」
「ずるいよ」
雨宮はそう言って、少しだけ笑った。
その笑顔は、やっぱり初対面の相手に向けるものではなかった。
長い時間の果てに、ようやくまた会えた人に向けるような。
そんな笑顔だった。
俺は何も言えず、ただ彼女の後ろを歩いた。
その日の夕方。
美術室の鏡に映っていた未来は、少しだけ形を変えた。
でも、俺の耳の奥にはまだ、かすかな音が残っていた。
チリ。
チリ。
第一の七不思議は、まだ終わっていない。




