神隠し
風鈴の音、涼しい風。
蝉の声が遠くからぼやけて聞こえる、外装だけボロボロなこのお社は昔は生き生きとしていた。今はそこに一人……いや、二人だけが住んでいる。
緑の畳から勢いよく立ち上がった十四くらいの少年は、側に座る少年の見た目をした神様に向いた。
「やしろ、見て! できた」
少年の手の中には青い鈴に、彼が編んだ青と白の紐が付けてあるのが見える。
「綺麗だ」
「そうでしょ? 頑張って作ったんだ」
少年は子どもらしい笑顔をしたが、神様は憂いを帯びた顔をした。
「今度の夏祭りの時に、帰ったら? いつか死んじゃうよ」
「……帰れたら帰るよ。でも僕はもう半分死んでるし、ここの空気は落ち着くからさ」
それに神様は溜め息を吐いた。
「神隠しに遭っておいて泣き出しもせずに、終いにはここに居座っちゃうなんて……」
「仕方ないだろ? そもそも初めは君が帰してくれなかった」
「もう帰ってほしいよ」
「本当に?」
首を傾げた少年に、神様は黙る。続きが来ないので少年が言った。
「君は優しいから僕のこと直接殺さなかったのかもしれないけど、死んだら君と屋台を見て回りたいな。幽霊になれば隣町に行くのも簡単だろうし」
「……幽霊、ね」
「この村貧乏で祭りも何もないから退屈なんだよ。隣町へは電車で行かなきゃだし」
それを聞いて神様は一段と深く溜め息を吐くとどこか遠い場所を見た。
「……誰も構ってくれない。そもそも誰も来ない。湿気てカビ臭い場所に長年独りぼっち。君がずっと横にいてくれれば寂しくはないかもね」
神様は申し訳なさを含んだ微笑をする。それに少年は小さく息を吐くとパッと顔を明るくした。
「ずっと一緒にいてあげるよ。君がこのまま忘れ去られて、神なんて肩書きも消えちゃうくらいまで、ずっとさ」
「……優しいのは、多分君の方だよ」
神様は、静かに笑った。




