雨降り花咲き
日の出ない日が続いてしまうと、憂鬱な気分になりがちだ。
家の二階、小さな机に向かっていた私は進まない原稿に筆を置いた。背伸びをして立ち上がり、ずっと正座して前屈みになっていたせいで固まった体を伸ばす。ついでに外の様子を見ようと、掛けてある風鈴に当たらないよう窓に腰掛けた。
二階から見下ろした庭の端の、綺麗に咲いた紫陽花にぽつりぽつりと雨粒が落ちているのが見える。どうやら小雨が降っているらしい。そのまま通りに目を移すと、同じように色とりどりの傘の花が咲いていた。
くるりくるりとそれを回す子、母に注意されるその横で、別の子が楽しそうに駆けてゆく。それでまた「人の着物に跳ねるからやめなさい」なんて怒られて。
いつもより少しだけ彩り豊かな通りの様子を眺めていると、一つ、愛が咲いているのを見つけた。一つの傘に二人で入り、男の方が肩を濡らしている。それを微笑ましく見ていると、差した晴れ間に彼らが傘を傾け、ちらりと顔が見えた。一目で分かる程に幸せそうだ。
微笑ましく眺めてみるが、私にもそんな相手が欲しい。が、影も形もないのが現状だ。私に春は来るのやら。
そんなことを考えていると戸の向こうから家政婦の声が掛かった。どうやら編集者が来たみたいだ。軽やかで美しい雨と花を見ていたのに一瞬で足が重くなる。前は居留守も使えたが、彼女が来てからそれが出来なくなった。「夕食は先生の好物を出しますから」と一回りも下の彼女に励まされ、私は情けない声で返事をすると階段を下りていく。
……今からでも言い訳を考えてみるか? 締め切りを引き延ばす方法を考えてみようか? いや、どちらもやめておこう。彼には私の考えなどお見通しなのだから。
開けた襖の向こう、仏頂面で茶を啜っていた男と目が合うなり私は顔を逸らしてしまった。あぁ、駄目だ。今日も絶対に怒られる……。
関連(彼が書いたらしい詩)
【花と傘】
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