第5話 帰る場所
1927(昭和2)年1月25日。
隅田舞が、いつものように大久保のタイムスリップ部屋を訪れると、連がいた。
「連……!?ここで会うの、タイムスリップの日以来だね」
「浅草の家じゃ毎日一緒にいるのに、何か変な言い方。舞はここに、よく来てたの?」
「まーバレるよね。よくというか……最近はほぼ毎日くらい」
「そっか……なんで皆に言わずに?」
「だって、3人とも元の時代に戻ることより、今のこと頑張ってるでしょ?何か悪くって」
「……悪いわけないよ、そんなの」
舞は黙る。
「舞を1人にさせてたの、僕らだよ。僕らじゃん悪いのは」
舞の顔がぐしゃりと歪んだ。何かを堪えながら唇を噛んで、俯く。
「……っ、違……」
声にならない。
「あたしさぁ……別に、そんな重い感じじゃ……」
涙がぽた、と畳に落ちる。目を擦ろうとすると、擦った分だけ、涙がどんどん溢れてくる。
「あの……さ……じ……自分が、死んだかどうかも、確認できてないよ?」
連が舞の肩に手を置く。
「お葬式されたなら、まだいいよ?……死んだかどうかも分からないで、お母さんとか、もしあたしのこと探してたら……」
舞は子どもみたいにしゃくり上げた。
「意味分かんないじゃん……怖いよ……」
窓の外では、冷たい風が鳴っている。
「僕もさ、考えないようにしてるだけ」
「……ええぇ、本当?」舞は泣きながら少し笑った。
「家族のこととか。帰れるかどうかとか。考え始めると、多分何も出来なくなるから」
「……ほんとは怖い?」
「ほんとは怖いよ」
舞は、部屋の隅のラッパラジオをぼんやり見つめて言った。
「あたしがこの部屋に来てたのはね」
「うん」
「この時代と元の時代のつながりとか、タイムスリップの鍵とか、何か無いのかなって、探してた」
「うん」
「でも、こんなちっちゃい建物で、物も少なくて、やっぱり手がかり無いんだよね」
「そっか」
「考えても無駄なんだけど、もし、あの日外に出ないで、ずっとこの部屋にいたら、ひょっとして戻れる可能性もあったのかな、とかって」
「……僕がさ…僕が、歌を歌って、歴史を改変し始めたから、戻れないんだとしたら」
「……え、いや、そんなことまでは考えなくていいよ?」
「だったら本当にすまないと思う。舞にも、拓哉にも、みどりにも」
「皆で外に出たし、皆でステージにも出たんだから、連が1人で背負うのはおかしい!それは」
「……うん」
「連はさ、今日なんで大久保に来たの?」
「……それは、なんか、ちょうど1ヶ月経って、『この時代の自分』の原点を目で確認した方がいいと思ったから」
「フフ…。連はやっぱなんか、先行ってるなあ」
「どっちが先とか、無いと思う」
「そうは言っても、今は戻る手がかり無いし。この時代に向き合ってる連は偉い!」
「なんか僕、言わせてない?」
「違うよ。あたしって普段あんまり正直な人じゃないけど、今日は凄く正直に話してる」
「なんか、よかった」
「あたしも、迷いながらかもしれないけど、時代と向き合ってみようかな。料理とか。やりたいことやってみる」




