序|後編 - 荷持ちのソフ
まず、私とレグラとの出会い頭は酷いものだったと思う。
「そこの冒険者のお兄さん!いいの連れてますぜ!」
「あん?」
レグラと出会ったのは私が奴隷商人に捕まってから荷持ちとして冒険者に売られているところだった。
各地の町を転々としていた私は野宿することも多かった。それが裏目に出たのか、起き上がったら周りに剣を持った男達と裕福そうな商人がいた。
奴隷商人は最初は私の容姿がこの周辺地域では珍しいのか、貴族に売ろうと考えてたのだろう。しかし何度も私の方を見ては困惑していた事が多かった。それが運が良かったのか悪かったのか、最終的には私の元からの職種である『荷持ち』として冒険者に売られることになった。
そして、当時まだ銅冠級だったレグラのパーティはこれからダンジョン踏破の為に人員を増やそうと考えていたところだった。
「荷持ちか。」
「どうです?少し面倒なモノがありますんでお安いですよ。」
「いいね、買った。いくらだ?」
その時のレグラの表情は、コイツをどうやってこき使おうか、という見て分かりやすい貴族の悪い子供みたいな笑顔を向けていて、私はそれを不安そうに見ていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「おい!早く飯作れ!!テメェはこれから雑用も兼任だ!!」
パーティに強制的に入れられた後にやった最初の仕事はまず料理を作るところからだった。一人で過ごして学んだ手料理の技術が雑用として使われた後、今度は洗濯をすることになった。その次はパーティの作戦や計画する資料用意、その次はダンジョンにて荷持ちとしての同行、最後にパーティの宴会の後の後片付けだった。
「不満そうな顔だな。」
「…いえ。」
「何か楯突こうとしてみろ。その時はしっかりと痛めつけてやるからよ。」
自分を見下しながらその場を去るレグラ。私は彼のパーティの初期から荷持ちとしての役割で使われていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
暫くしてから様々な冒険者がレグラのパーティに来ては、また新しい冒険者が代わりとして入ってくる。レグラのパーティはダンジョンに入っては未踏地点に進んで危険調査やモンスターの討伐を盛んに行っており、そのせいか仲間を失うことが多かった。特攻隊のようなパーティは実力が無いとすぐ死んでしまう。荷持ちだった私は戦闘能力が無い為、生き延びるのに必死だった。けれど、その特攻による行動が功績に大きく響いており「入れば活躍し有名になれる」パーティとして段々と大きくなっていった…死んだら意味がなくなることは置いておいて。
そのせいか、パーティの荷持ちも比例して多く雇うことにもなった。そしてやっていることは私と同じ、料理、洗濯、片付け、他に戦士や魔法使い等は武器や道具の手入れ、僧侶やシーフは諸本や資料の用意などやることなす事ほぼ奴隷のように扱われていた。大体は奴隷から雇った者もいたからそうなのかもしれないが。
それの影響で、パーティの荷持ちをこき使っていた者達は更に道具扱いとして加速していった。
「オラァ!お前らがちゃんと生きていられるのも俺らのお陰だぞ!」
「やめてください…!ひぃ…!?」
たまに適当な理由で荷持ちの誰かを暴行し、遊んでいる姿は貴族の戯れのようで私は見ていられなかった。
「…やめてください。」
「あぁ?ただの荷持ちが何勝手に守って——レグラさん?」
荷持ちの男を守るように庇う私の前に、殴っていたシーフの前にレグラが立つ。
「コイツは俺がやる。なあおい、最近荷持ち仲間を助けてる奴がいるって聞いた。お前だろ。」
「…それがどうかしたんですか?」
「仲間意識か?おめでたい奴らだな。そうやっても荷持ちはただの荷物を持ってくれるだけの置物。いくらでもいるし雇えるんだよ。」
「それでも、私もこの人も人間です…。」
「それがどうした。ソイツが荷持ちになったのはソイツの称号による運命だ。これは何も変わらないし変えられねぇ。意味がねぇんだよ。」
「例えそうでも、荷持ちじゃなくなる時があるじゃないですか…!私はそう信じて…」
突然、拳が飛んでくる。視線がぐるんと半回転し、いつの間にか地面に手を置いて膝をついていた。
「こんなことされてもか?」
レグラの表情が見下しに変わる。けれども、やることは変わらない。
「………。」
「テメェ…。」
顔に痣が出来ていても目を見てくる私にレグラは睨み返すと、すぐ逸らしていった。
「…チッ、しらけた。おい、行くぞお前ら。」
レグラの対応に周りは困惑するも、彼に付いて行く。そしてレグラは最後にこう言い残した。
「テメェは俺が買い取った荷持ちだ。反抗でも逃走でもしてみろ。絶対に潰して言い逃れ出来ないようにしてから俺のモノだと改めて認識してやる。」
それ以降、レグラは私に対して命令はするもそれ以上のことを言うことは無くなった。私が荷持ちを助けたとしても反応はせず、ただ見ては視線を逸らしたり、元のやっていることに戻るだけだった。
それから二年が経過し、期待の新星パーティとなった〔決死進軍〕は有名な称号持ちの、同じく期待の新星の戦士や魔法使い、僧侶にシーフを連れて金冠級に上り詰めた。私のやることは変わらず、このままこのパーティで同じ仲間を助けるだけの毎日を送る日々を送った。
そんなはずだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ウワァァァァ!!!」
「ヒッ…ギャアアァァァ!!!」
「何も見えねえ…グワァァァ!!!」
「なにが…起きてるの…?」
目の前には一面暗闇が広がり、手元すら見えないこの状況に叫び声だけが聞こえる。
状況が変わったのはあの時だった。〔決死進軍〕は『夜霧の神殿』の奥に進むと大空間が広がっており、そこには巨大な扉と周りには水晶石が生成されている場所だった。荷持ちはその空間に入り、少しの休憩としてバックを下ろしていた。
すると、扉の方にいた所から「試練を受ける」と聞こえてきた。すると大空間の中央に試練を行う神が現れ、そして戦闘が始まった。
「あの神…がこの暗闇を作ったんだ…」
状況から察するにそう思うしかない。運良く後ろには壁にできる巨大なバックがある。それを壁にして時間を凌ぐべき———そう思った矢先、声が聞こえてきた。
「助けてくれ…。」
昨日、私が助けた青年の声。確か近くに同じように荷物を置いていたはずのその声。この状況で何も出来ず、ただ怯えるしかできない、その声に。
私は身体が勝手に助けるように動き出していた。
後ろにあるバックは私が二年間使って慣れしんだ物だったためか、荷物の何処に何が入っていたかすぐに分かった。
荷持ちの仕事のない時に、なけなしのお金で買った誰かを助けるための貴重な光源棒と閃光球。きっとこれを使えば誰かは助けれるかもしれない、それでも助けれないかもしれない。そんな不安だけが頭にクシャクシャと溢れる。
「…っ」ギリッ
けれど、その不安を押し込むように強く歯を鳴らすと、すぐに光源棒を構えて光らせた。きっと、私でない誰かが救われるように。
こうして、私が終わっても人が生きられるように。
‣‣‣‣‣◇‣‣‣‣‣◇
「酷い怪我だ…君、意識はあるかな。」
勇者。目の前には、私が見たことある勇者の中で、最も有名で、きっと私が関わることのなかったはずの勇者が立っている。
灰の混じった白髪、私の二回りも大きい身長、そして殆ど装飾のないどこでも見る一般的な鉄の剣と冒険者の青い服を着た、飾りのない剣士。この人が、ミラナム王国のギルドで唯一の白冠級パーティのリーダー…
「私はケテル、勇者だ。君が最後まで残っていたことに気が付いてね。結界内が暗闇だったがいてもたってもいられなかったんだ。」
「は、はい…。」
『勇者』。かつて昔、魔王を倒したとされた人の職種。人を導き、助け、平和を齎した存在。だが、それは本当に昔の話だ。
世界を平和に齎した勇者の血筋を求めんと当時のあらゆる国は勇者の子孫を求めた。しかし、勇者は忽然と姿を消してしまった。その理由は自分を求める者達に呆れたのか、新たなモンスターを倒しに戦いに向かったのか不明だった。
しかし、勇者が消えてから少しの年月が経つと、新たに勇者の適正を持つ人達が生まれてくる事が分かった。
この世界に生まれる人達は戦士や魔法使い、僧侶にシーフといった冒険者における職種やただの商人に農家といった一般的な役職まで、幅広く適正があったりする。その中で極稀にたった"ひとつだけ"の職種としてのみの適正として生まれてくる人が存在した。それが勇者の子孫と言われるようになり、いつしか職種『勇者』となった。
「しかし本当に暗闇だ。私から君を見ると上半身しか見えないよ。君は私が見えるかい?」
勇者の彼が私に対して質問を投げかけてくる。今の状況は敵地のど真ん中なのに、なんだか余裕がありそうで気が抜ける。
「は、はい……。勇者…ケテルさんはどうやって暗闇を走ってここに?」
「さっきまで私の仲間が結界を解いてね。解いた瞬間にすぐ走ってきたんだ。意外と見える暗闇で助かったよ。ほら、暗いところは慣れるとすぐ目が慣れると言うだろう?」
………?自分が光っていることを気付いてないのかな。
「あの、ケテルさんの鎧から光っているように見えるのですが…。」
「あ。…なるほど!助けるのに夢中で気が付かなかったようだ。味方が明かりを付与する魔法でも私にすぐ付けたんだろうね。」
はははっ。と笑う彼は少し照れた顔をする。この人は本当に勇者なのだろうか、そう思えるほど優しく思える。
「新たな勇者か…よくも俺の腕を斬ってくれたな…!」
暗闇から呻きと恨みが響きはじめる。一層怒りの感情が濃くなるのを感じてくる。それを聞いてケテルさんもすぐに怒りを見せる。
「何を言っている。試練の魔法による結界がある以上、この子はここに残る選択を余儀なくされたはずだ。まさに辛い選択だっただろう。それに傷つけて弄んでいたのが聞こえてきた…そちらこそせめてものの情けも無く悪虐を与えてるし、悪いのはどっちだろうな。」
「何を…!!俺はここの試練を請け負う神だ!俺を倒せない者は弱く醜く逃げた!ソイツは生贄だ!私が自由にして何が悪い!!」
「タチが悪い!」
狭い明かりの範囲、その外から急に暗闇から無数の手に棘や刃が四方八方からケテルに向けて伸びてくる。
しかし、ケテルは剣を瞬時に構えるとすぐさま伸びてくる手や棘を全て切り捨てていく。切り捨てるものはどれも明かりの範囲に入ったものばかりで、まるで明かりの範囲自体が侵入したら斬られる円のフィールドのようになっている。
「ぬぐ…!?」
「本来の暗闇だと、この手や棘が襲いかかるみたいだな。戦いの定石だが、やっていることは地味だ。」
「地味だと…!?馬鹿にしているのか…!!!」
するとケテルは何か察知したのか、私をすぐさま抱えて大きく後退する。するとすぐにさっきの場所から強い衝撃が飛んできた。
「今のを避けるか。勘が鋭いな。」
「今のは危なかったな。無数の手や棘が出てくるんだ、巨大な刃が来たりしても違和感はないな。」
「………凄い。」
これが、白冠級の勇者…金冠級でも撤退した相手をたった勇者一人で相手できている。けれど、あの神からはまだ余裕がありそうな声で語りかけてくる。
「中々強いが、貴様一人だけではこの俺は倒せん…!」
「そうだろうさ。神は司る力の象徴が必ずあり、その弱点を突かなければ倒せない半不死の上位存在だ。この暗闇をどうにかしないと倒せないんだろ?」
「すぐに分かるか、その通りだ。この試練を受けた者達は部屋を光で灯してみたが、それでもこの俺を完全に倒すほどの明かりには届いていない!この俺を倒すのならば、この大空間を影もないほどに明かりを灯してみるがいい!!」
この大空間全てを強烈な光で埋める程じゃないと倒せない相手…試練と称するのもその通りだと分かるほど理不尽だ…。けれど、それでも彼、ケテルは軽そうな様子で、神に言葉を返した。
「そうなんだな。生憎私はこの大空間を明るくする方法は無い。だから仲間の力で照らす。」
「…………何?」
「国を灯しだす」
後ろから女の声が聞こえてきた後、空に何重もの魔法陣が書かれた球体が現れる。暗闇でも見えるそれは急速に輝き始め、そしてすぐさまこの大空間全てを影も無くす程に光で埋め尽くした。
「グォォァアアァァァ…ッ!?なんだとぉ…!?」
強烈な明かりを灯す魔法により、神は明かりを灯した時と同じ姿が現れながら、その光に当てられ体を構成する暗闇が少し霧散していく。
「この魔法は…?」
「あぁ、私の仲間の魔法だね。」
私は咄嗟に後ろを振り向くと、そこにはケテルの仲間である八人の冒険者がいた。
「先走りするなっていつも言ってるでしょ!私の魔法が無かったらどうするつもり!?」
《万物》の魔法使い、フォステルセ。
「人だけ助けて自分は残るつもりだったんだろ。アイツのやることだ。」
《怒涛》の武闘家、ヴィット。
「ケテル!先走って困るのはこちらだ!まったく…。」
《光芒》の狩人、エンスタ。
「まぁまぁ!無事に人助けできてよかったやんかぁ〜。」
《流動》の遊び人、メイリーダ。
「その通りです。自分より他者の命を最優先したこと…勇者として正しき行動ですよ。」
《節制》の僧侶、ロワーレ。
「………。」
《断続》の暗殺者、ミロスチ。
「相手は神か。普遍的な魔法しか使っていない辺り、下位の神だろうな。」
《洞察》の研究者、アルク。
「ケテル、最前衛は俺がします。」
《不撓》の戦士、トデ。
「…白冠級パーティ…〔道の樹〕…。」
普段集まっていることも少ないパーティ全員が…私の目の前にいる。
「いやぁすまなかった。だけど後はあの神を倒すだけだから許してくれないかな?」
「いや許しはしねぇよ。ここがダンジョンの現状の最奥だからって他パーティの尻拭いをさせられてんだぞ。頼みこまれて手伝うのはまだしも、それすら無しに全滅パーティのしかも荷持ちを助けるなんざ世界中探してもお前だけだ。」
不良のようにガンを飛ばしながらケテルに目を向けて話すヴィットはケテルに不満をぶつけ始める。
「ご、ごめんなさい…とてもお手隙をお掛けしてしまい…」
「まったくその通りよ。お陰で結界の解析と解除を速攻でしなきゃいけなかったんだから。」
「ああ。有意義な時間だった。」
ヴィットに助長してフォステルセは正直に、アルクは皮肉に言い放つ。
「でもやってくれてとても助かったよ。それに荷持ちを助ける勇者がここにいて良かったじゃないか。」
だけどケテルはケロッと気にせず言葉を返す。それを聞いてヴィットは「チッ」と舌打ちする。
「それより今はあの神だ。トデ、防御を頼むよ。フォステルセ、閃光魔法を絶え間なくやってくれ。エンスタ、ミロスチ、立ち上がらないようにしてほしい。ヴィット、私とトドメを狙おう。」
「了解。」
「はぁ、分かってるわよ!」
「分かった。」
「……把握。」
「俺が先にトドメを貰う!」
伝えられた五人が返事をすると、静かにしていた神が大きく叫ぶ。そして地面を叩きながら、更に身体を巨大にさせ本気になろうとしてくる。
「勇者がなんだ…光がなんだ…!!貴様等、全員を肉塊にして殺すッ!!!!」
そして神の百以上を超える黒い手、黒い棘、黒い刃が襲ってくると共に、戦闘に入る六人が挑んで行った。
激戦が始まると共に、私の身体にロワーレが手を翳す。
「我が御身を捧げます…汝の魂の器を癒やせ。癒しの祈り。」
翳された掌から、全身が煌めきに包まれると、自分の身体にあった傷が全て回復していく。
「あ、ありがとうございます、ロワーレさん。」
「私の名前を知っているのですね。とても嬉しいです。」
この国にいるならこのパーティの全員を知らない人はいないよ。そう思いながら、目の前の激戦を見やる。それは私のいた〔決死進軍〕との数による戦いとは違う、実力による戦いだった。
「…っ!引き寄せる」
「光に砕け散れ!引き裂く光!」
トデが大盾を構えると、神の全方向に広がった攻撃が全てトデの盾に吸い込まれていく。
その隙にフォステルセの出した閃光が神の全身にぶつかり、鱗を削るように速攻で生えている腕を削っていく。
「ヴォォォォアアアァァァァーーー!!!」
神も対抗し、巨大な腕を数本使い暴れて地面ごと抉り攻撃しようとするも、エンスタとミロスチがそれを貫き飛ばす。
「ミロスチ!そっちの腕を殺せ!」
「…分かった。」
「ヴィット!」
「今のうちにだろぉ!!オラァ吹き飛べや!!」
ズドォッ!!!
懐に入ったヴィットの一蹴りで神の巨体が宙を浮きながら回っていく。だが、空に浮いたのを利用し、一撃を入れたヴィットへ大量の刃を伸ばし落とす。
「ウゼェ悪魔がよ!」
「そら!」
そこを横一閃でケテルが刃を全て斬り払い、ヴィットが後退しながら立て直す。
30秒も経たない内に繰り広げた攻防は実力が違うと理解できる。
「クソ!入った感触がねぇ。明かりがあってもダメージが入らねぇのか!?」
「どうやら、そうみたいだ。見ろ、お前の空けた蹴りの穴がみるみる塞がっていく。しかも折角無くした腕や刃がまた生えてくるぞ。」
壁に引っ付き降りてこず、パーティを見つめる神は少しの時間ですぐ元通りになっていく。
「このままじゃジリ貧じゃない。どうすればいいの?」
「神への対処は合っているはずさ。ならば何か見落としているものを探せばいい。もう一度行こう!」
すぐさままた激戦が始まろうとしてたところ、回復され見ていた荷持ちは苦戦する戦いを眺めていると、アルクが目の前にやってくる。
「おい、荷持ち。アイツを倒す方法を何か知っているか?」
「し、知りません…。けど、私のパーティの勇者たちが、神刻文字を読んでたのは知ってます…それで試練が起きて…。確かそこに…」
指を離れたところにある扉を指す。
「ふむ…おい、メイリーダ。双眼鏡をよこせ。」
「お高いですよ?」
「チッ…」
アルクが舌打ちしている。双眼鏡、確か私のバッグに…。
「双眼鏡なら私のバッグに…あそこにまだ残っているので。」
指を差して逃げるために置いていったバッグを指さす。
すぐさま全員でバッグの元へ移動し、そこから双眼鏡を取り出すとアルクがひったくりすぐさま神刻文字の書かれた扉を見やる。
「…"我等は神々。勇者に試練を与え、大いなる力を示さんとする者。封印されし神をこの手で倒すのであれば開かれん。"」
神官でも難しいと呼ばれる神刻文字をスラスラと読み上げていく。しかし、途中から表情の機嫌が悪くなってきている。
「…"神々に力を示すのであれば、試練を受けし者達の手のみで、我らを倒してみせよ…。"クソッ。」
「つまり、この試練は…」
ロワーレが聞くと、アルクが不機嫌に返す。
「試練を受けたパーティがこの試練を突破しないと開かない。しかもそいつが倒さないといけない制約付きでな。」
「つまり…現状、私があの神を倒さないといけない…?」
「そうだ。」
そんな制約があれば不機嫌になるのも分かってしまう。これは初見殺しと同じだ。けれど…
「…やります。私が…やらないと、終わらないから…。」
フラフラと立ち上がろうとすると、ロワーレが身体を支えてくる。
「いけません。貴方は全身酷い怪我をしていたのですよ。それに貴方は荷持ち、戦う力は無いでしょうし、ここは撤退して改めて荷持ちの子と同じパーティを探し出して挑んだ方がいいでしょう。」
自分を心配してくれている、この人も優しい人だ。けれど、私は…。
「……私は、同じパーティから…捨てられました…。」
「…!」
「だから…私じゃないといけないんです…最後まで過去に残っていた、私じゃないと…。」
「…。」
頭に手を置き考えるアルクが、ふと荷持ちに目を向けると、すぐさま身体をまさぐろうとする。
「アルク!?なにを…!?」
「おい、荷持ち。身体の何処かに刻印はあるか?探せ!」
身体に触れるアルクをメイリーダが離す。
「そんならうちらが探すわ。アルクは男で荷持ちは女やろ?」
「いえ、私は女じゃなくて…。」
「そうなん?まあ別にええな。」
そのまま身体を探ると、右太ももの後ろに黒い太陽のような形の刻印を見つける。
「あったわ。これ元からあったやつか?」
「刻印なんて一度も受けたことは…コレって…?」
「神の刻印だ。制約のある魔法にはこういった刻印が付けられていたりする。やはりコイツが倒さなければなんの意味もないことが確定した。」
私を睨みつける顔が更に顰めっ面になっていくと、ため息を吐いた。そこをメイリーダが怒りを収めようと挟んでくる。
「ま〜これであの神を倒す手段が出来たんですから。この荷持ちを無事に生かせたままやればええやんか〜?」
「しかし、それでも荷持ちが倒せるなんて方法は………」
「どうしたんだい?さっきから作戦を立ててるように見えるが。」
するとそこに後退してきたケテルが話してくる。
「アルク、この荷持ちの子がなにかあったのかい?」
「あぁ…簡単にいえば、コイツがトドメを刺さないと終わらない。チッ、どうすればいいか言ってみろ…!」
戦力外、当たり前だ…荷持ちは戦闘では多大な能力低下を及ぼす。たとえ巨大なバッグを持てたりする怪力でも、それが相手に効くわけではない。身体能力は一般人並だ。
それをみんなは分かっている。だから戦えたとしても、なんの意味も———
「それなら私の剣を握ったまま一緒に倒せばいい!」
「…はぁ?」
アルクが「何を言っているんだ?」という顔でケテルを見る。…ロワーレも、私も同じ顔だ。
「そんな方法で制約が務まる訳ないだろ。」
「いや、意外といけるものだ。過去に私も似たような制約を受けた際に行けたことがあるからね!」
……………魔法って、そんなものなの?
唖然とする私にメイリーダが肩を叩いてきた。
「なら任せましょ〜やんか!ケテルなら行けそうやろ?」
「ああ。持ちながら倒すのなら余裕なはずさ。」
「なら決まりやねぇ。荷持ちの、頑張りなはれ?」
「え、そんなに早く…うわっ!?」
ケテルが私をお姫様抱っこで背負うと、すぐさま駆け出して前線に復帰していく。その様子を見たヴィットが近寄ってきた。
「戻ってきたか。全然あの神やられる気配がねぇぞ、どうするつもり……おいなんでソイツ抱えたんだ!?」
驚いた表情を見るまもなく、ケテルは指示をしていく。
「みんな!神の足止めをしてくれ!後は私と荷持ちの子がやる!」
「どういうことよ!なんで荷持ちが戦闘に参加してきてるの説明しなさい!!」
大声で遠くから叫ぶフォステルセにすぐ「この子じゃないと倒せないからね!」と返事すると更にムカッとした表情で怒ってきた。
すると、気付いた神がケテルと私に攻撃を仕掛けてくる。
「どうやら方法を見つけたようだが、その子供に何ができる!!死んで終わらせてやグォッ!!?」
すると、神の体が衝撃で横に倒れる。横からトデが大盾の突進で足元を崩したようだ。
「指示を把握した。足止めはこれでいいか。」
「トデ、助かった!荷持ちの子、剣を握って!」
「は、はい!」
横に倒れた神に向けケテルが速度を上げると、胴体の前から後ろまで一閃で斬り裂いた。
「グォォォォォォォォ!!!」
今までとは違う、身体からは黒い霧のようなものではなく黒い液体が溢れてくる。それに痛々しい声もする。確実に効いている…!
「やっぱり正解のようだ!剣を握るだけでも効くならトドメを刺せる!」
「グゥゥ…!!このようなことがあってたまるか…!!!」
怒りに溢れ出す神が、もはや油断しなくなったのか集中的に狙い始める。
「大人気ないな!神としての威厳はどこにいった!」
「貴様等を敵として認めたまでよ!!」
「なら光栄だな!そのまま倒させてもらう!」
真正面から真っ直ぐ走りだすと、あらゆる方向から攻撃が飛んでくるも全て薙ぎ払っていく。それに見かねる神は更に身体の後方を全て黒い霧に変えると、全て攻撃に回す棘や刃に変化し貫こうと襲いかかる。
「無駄だ!」
すると、音もなくその大量の棘や刃の壁が大穴となり開かれると、その後に風切り音が強く響く。エンスタの音断の援護射撃が道を作ってくれた。
「さあ、トドメだ!」
勢いよく飛び上がったケテルがブォン!と剣を握る私ごとを空に投げ上げた…………
え、
「え?!」
なんで私を投げたの!?
そう心の中で叫ぶと、神の攻撃に使っていた黒い霧が全て集まり、巨大な槍となって私に向けて刺しにくる。
「馬鹿な真似だ…!!!」
「そうね、私達を忘れているのをお分かり?」
離れて待機していたフォステルセが足元に巨大な魔法陣を展開し、杖の先に途轍もない光が集まっている。そして身体を前に傾けると、詠唱の最後を言い放つ。
「弑する光よ———極めく光。」
「—————————な」
その光が収縮すると青が混じる光の柱となり発射される。狙われた神の槍は一瞬で蒸発され、神の体は裸同然となった。
「………………にぃ…………!?!?」
神が驚愕している途中、浮いている私は落ちようとするのを飛んできたヴィットが捕まえる。
「受け止めろ!!!」
そしてまた放り投げだす!
「う、ああぁぁぁぁぁ!!!」
「ハハハ!来い!」
直線上に受け止めたケテルは、そのまま私の剣を握る手を上から握ると、神の顔の前に剣を突き出す。
「この…神が………!!!人間如きに……荷持ちというただの重荷如きに…!!!!貴様等がいたせいで!!!!!」
「荷持ちの子を助けて何が悪いんだ。私は勇者として敵を倒して人を助けたまでだよ。」
ズドォォォン!!!
地面を抉る程の鋭い衝撃と共に、神が貫かれる。
それと同時に着地したケテルは、土埃の中から荷持ちを再度お姫様抱っこしながら現れた。
「そういえば、荷持ちの君。名前を聞いていなかったね。君の名前は?」
「え?ええと…。」
後ろでは神の身体が倒れると、黒い霧となり霧散していく。神を倒し試練を終わらせた彼のその表情は柔らかくて、私を助けることが出来てひと安心した、そんな笑顔を見せた。
それを見た私は少し吃った後に、ゆっくりと口を開いた。
「…ソフ。ソフと言います。」
これが、私の運命が変わり始めた最初の戦いと出会いだった。
誤字、脱字、文の違和感等があればコメントをお願いいたします。修正します。




