第74章:覚悟
魔王軍の亡骸兵士たちが次々と床に降り立つたびに、石床が重たく鳴った。
その数――ざっと見ただけでも二十を超える。どれもかつて名を馳せた戦士たちばかりだ。
ミナが腰の剣を抜き、セラも弓に魔力を込める。だが――その前に、ヴァルゼリオが一歩前に出た。
「ここは……俺に任せろ」
レイは一瞬だけ驚いた顔をしたが、すぐに理解したように頷いた。
「……いいのか? お前の仲間だったんだろ」
ヴァルゼリオは静かに目を閉じ、そしてゆっくりと開いた時、その瞳には決意と哀しみが宿っていた。
「だからこそ、俺が終わらせてやる」
その言葉に、魔王軍兵士たちが僅かに反応した。
彼らの胸に宿る微かな記憶が、ヴァルゼリオの声に呼応したのかもしれない。
ヴァルゼリオは剣を構え、静かに呟いた。
「すまねぇ……本当なら、こんな姿で再会したくはなかった。
でも――もう楽になってくれ」
次の瞬間、彼の全身から黒炎が立ち上る。
「セラ、ミナ、レイ。先に行け」
「でも――!」
ミナが食い下がろうとしたが、レイが肩を掴んで首を横に振った。
「分かってる。……任せるぞ、ヴァルゼリオ」
「おう――任された」
レイたちは振り返らずに奥の扉へと駆け出した。
その背後で、ヴァルゼリオの怒号が響く。
「――《魔王流秘奥義・黒滅砲》!!!」
轟音とともに、真っ黒な暴風が研究室全体を飲み込んだ。
石床がひしゃげ、壁が溶け、魔王軍兵士たちの姿が粒子となって宙に舞う。
そして――完全に静寂が訪れた。
ヴァルゼリオはよろめきながら膝をつき、壁にもたれかかって笑った。
「ははっ……全力でやると、やっぱキツいな……。ま、あとは任せたぜ……英雄サマよ……」
その瞼がゆっくりと閉じる。
奥へ進むと、空気が一気に軽くなる。まるで先ほどまでの重苦しさが嘘のようだった。
やがて、三人は大きな鉄扉の前にたどり着いた。レイが押し開けると――
そこは石造りの広間。天井は高く、柱には無数の魔法陣が刻まれている。
そして、正面の高台には――
ザイロスの幻影が立っていた。
「よくここまで来ましたね、英雄ご一行」
その声はどこか楽しげだった。
「残念ながら、私はこの先で最終調整中ですのでね。
――ここから先へ進むには、“鍵”が必要です」
幻影が指を鳴らす。
――ドシュゥン!
床の魔法陣が光り、周囲の闇から無数の魔物が出現する。
狼型の黒獣、鎧を纏った骸骨兵、そして空中を漂う魔力生命体。
ミナが剣を構えながら叫ぶ。
「うわっ、数多すぎじゃない!?」
セラは冷静に魔力を練りながらレイに尋ねる。
「レイ、どうする?」
レイは一歩前に出て――意外な言葉を口にした。
「――これは任せる」
ミナとセラが同時に「はぁ!?」と声を上げる。
だがレイは真剣な目つきで二人に頷いた。
「この程度、二人なら余裕でしょ。俺は奥の扉の解除を探ってくる」
「は? お前なにサボろうとして――」
「サボりじゃねえ。信頼だよ」
そう言い残して、レイは背中の黒いコートを翻しながら高台の方へと歩き出す。
一瞬、ミナとセラは呆気に取られたが――
次の瞬間にはにやりと笑っていた。
「よーし、言ったなレイ! なら見せてやるよ、アタシたちの実力を!」
「ここで立ち止まってる暇なんてない。行くわよ、ミナ!」
二人の魔力が弾け、無数の魔物たちが一斉に襲いかかる。
その中心を、二人の少女が笑いながら切り開いていく――




