第73章:宝
影騎士の残骸も跡形もなく沈んだクレーターを抜け、レイたちはさらに奥へと足を進めた。
瘴気は濃くなる一方だが、道は妙に整備されている。まるで誰かが「歓迎している」かのように。
「いや、歓迎っていうより……罠っぽくない?」とミナが額をしかめる。
「罠なら全部踏み潰して進めばいいだけだ」とヴァルゼリオは笑っている。頼もしいのか脳筋なのか微妙だ。
そんなやり取りをしながら進むと――
目の前が急に開けた。
「……え、ゲームか?」
そこは広い石造りのホールで、なんと大小さまざまな宝箱がきっちり整列していた。ざっと見ても二十、三十はある。中には宝石で飾られた大箱や、逆に不気味に黒ずんだ箱まで。
「お宝だぁぁ!!」とミナが一番乗りで飛び出した。
「ちょっと待て、こういうのは罠が――」
レイが止める間もなく、ミナは蓋をこじ開けた。
――が、中からはふわっと布が出てきただけだった。
「……服?」
「コート、だな。それも黒いロングコートだ」とヴァルゼリオ。
レイはそのコートを手に取り、広げてみる。見た目は漆黒、しかし裏地には銀色の魔法陣のような紋様が刻まれている。軽いが、触るだけで魔力が循環するのが分かる。
「……異世界って感じするな」
そう呟いて、そのまま羽織ってみた。
バサッ――
袖を通した瞬間、背中の布がふわりと舞い、まるで主人を待っていたかのように自然に馴染んだ。
「レイ……めちゃくちゃ似合ってる」
セラがぽつりと呟く。
ミナも頷きながら、「なんか……ラスボスみたいでカッコイイ」と笑う。
ヴァルゼリオは腕を組みながら、「ああ、魔王って言われても信じるぞ」とニヤニヤしていた。
レイは鼻を掻きながら小さく言った。
「……まあ、悪くはないな」
宝箱ゾーンを抜けると、空気がガラリと変わった。
壁や床は鋼鉄のような光沢を帯び、魔導ランプが青白い光を放っている。棚には瓶詰めの薬品や、魔石、そして――
丸ごと封印された魔物の臓器や骨。
「うっ……なにこれ……」とミナが顔をしかめる。
「魔術研究施設だな。俺の時代にも似たような施設はあったが……これは桁が違う」とヴァルゼリオの声には怒気が混じっていた。
そして、部屋の中央――
巨大な水槽がずらりと並んでいる。
中には――
かつて魔王軍にいた兵士たちの身体が、魔力チューブに繋がれて浮かんでいた。
「……っ!」
さすがのレイも息を呑む。
その多くには記憶があった。魔王軍幹部を倒した時に戦った相手たちだ。敵だったとはいえ、誇りと力を持った戦士たち。
その彼らが――ただの「素材」として保管されている。
セラが小さく呟く。
「……ひどい」
ミナは怒りで牙をむき出しにし、ヴァルゼリオは拳を握りしめたまま震えていた。
「……やっぱ、俺がぶっ殺すわ。あのクズ野郎」
低く呟いたのはレイだった。
その時――
「おやおや、随分と感傷的ですねぇ」
上方のスピーカーから響く声。
見ると、ガラスの廊下の上に――ザイロスが立っていた。
白い手袋をつけた手で、にやりとボタンを押す。
――ザシュゥゥゥン!!!
水槽の魔力チューブが一斉に反応し、亡骸だったはずの魔王軍兵士たちが目を開いた。
次々と封印が解除され、床に降りるたびに鈍い衝撃が響く。
「貴様……何をした」
ヴァルゼリオが怒声を上げる。
ザイロスは笑って手を振る。
「さて、私は先に奥で準備がありますので。
皆さんは――彼らと仲良くしててくださいね。」
そう言って、去っていく。
魔王軍の亡骸兵士たちはゆっくりとこちらを向いた。
――戦闘開始だ。




