第72章:魔物の大群
体調不良で上げれなかった。
黒い瘴気が立ちこめる大地を、レイたちは無言で踏みしめていた。
ザイロスの領域――空は灰色の雲に覆われ、地面は黒く腐り、大気そのものが敵意を放っている。ですらりと立つ影の兵、まるで鎧を着た亡霊のような「影騎士」たちが、前方にずらりと並び塞がっていた。
甲冑はひび割れ、兜の奥には瞳が無く、ただ赤い鬼火が揺れている。一本一本の剣が、持ち主の怒りや憎悪をそのまま凝縮したような殺気をまき散らしていた。
セラが小さく呟く。
「……数、百は超えてるね」
ミナは耳を伏せながらも、拳を握る。
「レイ、どうする? 一体ずつじゃ埒があかないよ」
ヴァルゼリオは面白そうに笑っている。
「これだけ並ぶと圧巻だな。で、どうするよ、坊主?」
レイは無言で一歩前に出た。
腰の武器すら握らない。ただ、両手をポケットにつっこんだまま、影騎士の群れを無慈悲に見据える。
「……チッ。邪魔すんなよ。お前らと遊んでる暇ねぇんだわ」
その瞬間、影騎士たち全員の視線が一斉にレイに向く。瘴気が「ギリギリ」と軋むように唸り、魔力の波が衝突音のように辺りに響いた。
――次の瞬間。
影騎士たち全員が、同時に殺到した。
ズドドドドド――ッ!!!
黒い残像となって突撃してくる。地面が砕け、土が爆ぜ、風圧で周囲の岩が弾け飛ぶ。
セラが杖を構え、ミナが跳びかかろうとした瞬間。
レイが、無造作に指を鳴らした。
――パチン。
その音が、世界の支配権を書き換える合図だった。
直後、影騎士の群れ、その中央が 一瞬で消えた。
正確には――圧縮され、潰れ、消滅した。
ゴゴゴゴゴッ!!! という地響きとともに、空間そのものが歪み、黒い兵たちの身体が風船のように「内側から」押し潰されていく。
鎧も、剣も、瘴気も、悲鳴すらあげる暇なく。
――全部、粉微塵。
「なっ……!?」
セラが思わず杖を下ろす。
ミナは目を丸くしたまま固まり、ヴァルゼリオは口の端を引きつらせる。
「お、おい……お前、何した?」
レイは欠伸をしながら、軽く首を回した。
「重力を、ちょっとだけ“反転圧縮”しただけ。……ほら、地面ごと沈んでるし」
影騎士がいた一帯――直径数百メートルにわたり、大地が クレーターのように陥没 していた。中心はまるで隕石が落ちた跡のように真っ黒で、溶岩のようにじわじわと煙が上がっている。
セラは呆れ半分、尊敬半分で呟く。
「ちょっとどころじゃないでしょ……」
ミナは少し震えながら言った。
「レイが本気出したら、世界終わるんじゃ……」
ヴァルゼリオは大笑いした。
「はははっ!! お前、やっぱ魔王より魔王してるぞ!」
そんな三人の反応をよそに、レイは頭を掻きながらぼそっと呟く。
「……やべ、やりすぎた」




