第65章:完成した魔法
レイが部屋に籠ってから、すでに数日が経過していた。
昼夜を問わず魔力を練り上げ、幾度となく実験を繰り返し、時には失敗で部屋を吹き飛ばしそうになりながらも、ついに数多の新魔法を完成させたのだ。
空間を自在に繋げる「転移」。
闇と風を組み合わせて生み出した「黒嵐」。
光と土を融合させた「結界陣」。
そして何より、既存の常識を超える「頭の記憶を座標化しての瞬間転移」。
彼の目は疲労に濁ってはいたが、同時に満足の輝きを宿していた。
「……これで、ザイロスともまともにやり合える」
そう小さく呟くと、レイはゆっくりと立ち上がり、扉を開けた。
廊下を歩き、王の間へと向かう。
国王は未だ病床に伏していたが、先日より顔色も戻り、食事も取れるようになっていた。
「国王陛下」
レイは深々と頭を下げた。
「……顔色が随分と良くなったな。私の命を救った英雄よ、礼をいくら述べても足りぬ」
「礼はもう十分に受け取りました。ですが、俺には次にやるべきことがある」
レイの真剣な声音に、国王は目を細める。
「……魔王のことか」
「ええ。ザイロスの動きを止めるには、根源を断たねばなりません。そのために、今すぐ動き出す必要がある」
しばしの沈黙の後、国王は頷いた。
「わかった。そなたの道を邪魔はせぬ。ただ……娘を泣かせるような真似はするなよ」
その言葉にレイは少し苦笑を浮かべ、軽く礼をして部屋を後にした。
城の庭で待っていたのはセラだった。
心配そうにこちらを見つめる彼女に、レイは一言、はっきりと告げた。
「セラ、行くぞ。魔王の領域へ」
「……やっぱりそうなるのね」
セラは一瞬だけ俯き、しかしすぐに顔を上げて笑顔を見せた。
「私も一緒に行くわ。あなた一人で行かせるなんて絶対にできない」
レイはその答えを待っていたかのように頷いた。
「お前がそう言うと思ったよ」
二人は互いに視線を交わし、自然と笑みがこぼれる。
そしてその日の夕刻、二人は城門前に立った。
兵士たちや使用人たちが見送りに集まっている。
国王も姿を見せ、弱々しくも力強い声で言った。
「勇者レイ、そしてエルフの娘セラよ。この国のため、いや世界のため、どうか無事で帰ってきてくれ」
「承知しました」
レイは短くそう答えると、手を振り、セラと共に歩き出した。
遠ざかる城を背に、二人は新たな旅路を踏み出す。
目指すは――魔王の居城。
ザイロスとの決戦は、その先に待ち受けている。
「……行くか」
「ええ、一緒に」
こうしてレイとセラは、決戦の地へと歩みを進めたのだった。




