第66章:ザイロスの目的
城を後にしたレイとセラは、まっすぐ魔王――ヴァルゼリオが暮らしている学園の寮へと戻った。向かう先は魔王城ではない。なぜなら“本物の魔王”は今、人間としてその学園で暮らしているからだ。
寮の一室。軽くノックをして中に入ると、黒髪を揺らした青年――ヴァルゼリオが、椅子に座って本を読んでいた。元・魔王とは思えないほど穏やかな雰囲気だ。
「おう、もう戻ってきたのか。国王の件は片付いたんだろ?」
「まあな。……で、話がある」
レイが真剣な表情で切り出すと、ヴァルゼリオはすぐに本を閉じた。
「ザイロスのことか?」
「察しがいいな。あいつ、また動き出した」
レイが詳細を伝えると、ヴァルゼリオは眉をひそめ、少し間を置いてから口を開いた。
「ザイロスの目的は――世界の掌握、だな」
「うわ、出たよ……テンプレ展開」
レイは頭を抱えた。世界を滅ぼす・支配する・神になる。この辺りは異世界ものの典型パターンだ。前世で読み漁った小説や漫画と被りすぎているせいで、萎えたのだ。
ヴァルゼリオは首をかしげる。
「……今のどこに落ち込む要素があった?」
「いや、気にするな……」
セラは苦笑しつつも、レイの肩を軽く叩いた。
「それで、止める方法はあるの?」
「一つだけだ」
ヴァルゼリオの顔がわずかに険しくなる。
「――倒すしかない」
続けて語られたザイロスの厄介さはこうだ。
一度“目標”を決めたら、達成するまで絶対に止まらない。
理屈も感情も関係なく、時間がかかっても手段を変えてでも実行する。
魔王軍時代も、それで何度も国が滅びかけた。
「つまり、放置してたら確実に世界が終わるってことだな」
レイが肩を回しながら言うと、ヴァルゼリオは静かに笑った。
「そういうことだ。……で、止めに行くんだろ?」
「ああ、そのつもりだ」
「なら俺も行くか。暇だしな」
「お前ほんとノリ軽いな」
「元魔王にとっては世界平和も暇つぶしの一環なんだよ」
セラは呆れ半分で肩をすくめた。
そこへ、ちょうど寮の扉がバタンと開く音がした。
「あー、疲れたー! 獣人の森って帰るだけでなんであんなに遠いわけ!?」
元気よく戻ってきたのは、ちょうど旅から帰ったミナだ。レイたちの姿を見つけると、真っ先にセラの隣へ駆け寄る。
「おかえり。ちょうどいいところだ、話がある」
レイが短く事情を説明すると、ミナはきょとんとして――すぐに拳を握りしめた。
「つまり、そいつぶっ飛ばしに行くってこと?」
「ああ。同行するなら止めはしない」
「決まりね! セラが行くならあたしも行く! レイみたいな変人とセラだけに任せたら絶対ろくなことにならないし!」
「お前、それ褒めてるつもりか?」
「褒めてないわよバカ」
その口喧嘩を、ヴァルゼリオはちょっと面白そうに眺めていた。
「……で? 何人で行く?」
「とりあえず俺、セラ、ミナ、お前の四人だな。あとで他にも声かけるかも」
「了解。お前がリーダーなら文句はねえよ」
レイはため息をつきつつ立ち上がった。
「じゃあ準備しておけ。数日以内に動く」
ミナとセラは迷いなく頷き、ヴァルゼリオはあくび混じりに笑った。
こうして、元魔王と人外級三名による“ザイロス討伐遠征隊”が本格的に動き出すのだった――。




