第59章:夜の襲来
その夜。
レイとセラは、国王の寝室を中心に、複数の防御魔法陣を設置していた。床に刻まれた魔法陣は青白い光を放ち、わずかな侵入者の気配でも即座に反応する仕組みだ。
「これで大丈夫だろう。下手な暗殺者なら、一歩踏み入れただけで分かる」
レイは魔力の流れを確認しながら呟いた。
セラも隣で頷く。
「でも、油断は禁物よ。あの毒の手口……普通の賊じゃない気がする」
「だろうな。毒針なんて、ただの暗殺者じゃ扱えない」
レイはそう返し、深夜の静けさに耳を澄ませた。
結局、その夜は何事もなく朝を迎えた。
──翌朝。
国王自らが「朝食を共にせよ」と招いた。豪華な王族の食事は、レイたちにとって初めての体験だった。
白銀の食器に並ぶのは、香草で味付けされた肉料理や、ふんわりと焼き上げられたパン、透明なスープに浮かぶ果実。口にした瞬間、優しい甘みと深い旨味が広がる。
「さすが王族の料理……。これが毎日出てくるのか?」
レイは半ば感嘆しながら呟いた。
「ふふ、感動してるレイも珍しいわね」
セラは嬉しそうに微笑む。
国王はまだ完全には回復していないものの、少しずつ表情に活力が戻っていた。
「そなたたちもゆっくり休むとよい。夜に備えてな」
その言葉通り、昼間は控えの間で休息を取り、体力と魔力を温存した。
──そして、二日目の夜。
再び夜の帳が下りる頃、異変は訪れた。
「……来たな」
レイが低く呟いた瞬間、魔法陣のひとつが強烈に発光した。廊下の奥、結界に仕掛けた警戒陣に何かが触れたのだ。
「魔力反応……一人、いや二人か?」
セラが鋭い目で反応を探る。
レイは頷くと、腰の剣に手をかけた。
「行くぞ。ここを抜けられたら国王が危ない」
二人は素早く廊下を駆け抜け、魔法陣のある場所へ向かった。
そこに立っていたのは──
黒ずくめの二人組だった。フードで顔を隠し、体には闇の気配がまとわりついている。その手には、細長い針のような武器が握られていた。
「やはり毒針か……」
レイは眉をひそめる。
フードの下から低い声が響いた。
「邪魔をするな、若き魔導師。我らの使命は王の命を奪うこと……」
「使命? 誰の命令だ?」
レイが問いかけるも、相手は答えるつもりはなさそうだった。むしろ、返事代わりに刃を構えた。
「仕方ないな……セラ、気を付けろ」
「もちろん!」
次の瞬間、二人の暗殺者が同時に飛びかかってきた。
その動きは速く、まるで影が揺らめくように見える。
だが──レイが展開した魔法陣が閃光を放ち、暗殺者たちの動きを鈍らせた。
「かかったな!」
セラはすかさず弓を引き絞り、矢を放つ。矢は風の魔力を帯びて一直線に飛び、片方の暗殺者の武器を弾き飛ばした。
だが、もう一人は俊敏に跳躍し、レイの背後を狙う。
「甘い!」
レイは振り返りざまに炎の刃を展開し、相手の針を弾いた。その刹那、彼は相手の瞳を見て気づく。
「……闇の魔法で操られている?」
暗殺者の目は虚ろで、正気の光がなかった。まるで何者かに操られているかのようだ。
セラも驚きの声を上げた。
「じゃあ、この人たちは……!」
レイは歯を食いしばる。
「生け捕りにするぞ! こいつらはただの駒だ!」
だが、その瞬間──暗殺者たちの体が黒い霧に包まれ、苦しげに痙攣した。次の瞬間、体は崩れ落ち、影のように溶けて消えていった。
セラが息を呑む。
「そんな……! 消えちゃった……」
レイは険しい表情で霧の残滓を見つめる。
「やっぱりか。黒幕は別にいる……。そして、これはただの前触れにすぎない」
残されたのは、かすかに漂う闇の魔力の痕跡。
その不穏な気配を前に、レイの胸には重い予感が広がっていった。




