第35章:冒険者への第一歩
必要な素材を抱えて鍛冶師グラムの家に戻ったレイたち。
ドワーフの老人は目を輝かせ、まるで子供のように喜んだ。
「おお……! 間違いねぇ、魔鋼石だ! これなら最高の武具が打てるぞ!」
その声にレイたちも思わず安堵の笑みを浮かべる。
グラムはさっそく炉の火を強め、準備を始めた。
「しばらく時間はかかる。お前らはその間、好きにしてこい」
そう言われた矢先、セラがぽつりと口を開いた。
「……そういえばレイって、自分の装備まだ買ってないよね?」
「あっ、ほんとだ!」
ミナが大きな声を上げる。
レイは思わず視線を逸らした。
「いや……別に今のでも戦えるし」
「ダメ。せっかく鍛冶師さんが武器を作ってくれるのに、体を守るものが弱いままなんてありえない」
セラが珍しく強い口調で言う。
「そうそう! それに今後、魔王城まで行くんだから、ちゃんとした防具は必要だよ」
ミナも同調する。
レイは苦笑しつつも折れるしかなかった。
「わかったよ……じゃあ、見に行くか」
◇
街の大通りには武具店や防具店が立ち並び、威勢のいい掛け声が飛び交っていた。
レイは胸当てや軽鎧を試し、セラは防御効果のあるローブを見比べ、ミナはガントレットに加えて新しいブーツを手に取る。
「ついでに服も替えようか?」とセラが提案し、結局みんなで衣服店にも立ち寄った。
試着室から出てきたセラの新しい白と青のローブ姿に、レイは思わず目を奪われた。
「……どうかな?」
「似合ってる」
レイが即答すると、セラは顔を赤らめて俯いた。
支払いは、学園長から預かっていた資金を使用。だが、財布の中を見てレイは考え込む。
「……このままじゃ、長旅に足りなくなるな」
「うん、確かに」ミナが頷く。「じゃあ、冒険者登録しようよ! 魔物を倒したら報酬ももらえるし」
その言葉にレイとセラも同意し、三人は冒険者協会へ向かった。
◇
協会の建物は重厚な石造りで、中は賑やかだった。掲示板には依頼がずらりと貼られ、冒険者たちが口々に話し合っている。
「おう、新人か?」
受付に立っていたのは、厳つい顔をした中年男性だった。
「はい。冒険者登録をお願いします」
レイが頭を下げると、男は書類を取り出した。
「まずは簡単な訓練と、最後に魔力測定だな。お前ら、順番にやってもらうぞ」
訓練といっても、基礎体力や武器の扱い方の確認程度で、三人にとっては朝の準備運動のようなものだった。
その後、いよいよ魔力測定へ。
◇
最初はミナが水晶玉に手を置いた。
淡い光が広がり、数値が表示される。
「おぉ……ランクB相当の魔力量だな」
測定員が驚いたように言った。
周囲の冒険者たちも「新人でBランク級かよ……」とざわめく。
次はセラ。杖を持ったままそっと手を置くと、強烈な光が測定器を包んだ。
「なっ……! ランクA相当!? この歳で……ありえん……!」
冒険者たちはさらに騒ぎ出す。
セラは恥ずかしそうに俯き、ローブの裾をぎゅっと握った。
そして最後はレイの番。
「さて……次は坊主だな。軽く触れるだけでいい」
レイが水晶玉に手を伸ばした――その瞬間。
バリンッ!
甲高い音とともに、水晶玉が粉々に砕け散った。
光が爆発のように弾け飛び、協会のホールを白く染める。
静寂。
次の瞬間、冒険者たちの口が一斉に開かれた。
「……壊れ、た……?」
「触れてすらいなかったぞ……」
「い、今の何だ……」
圧倒的な沈黙の空気が広がる。
レイは苦笑して後頭部を掻いた。
「……ごめん。壊しちゃったみたいだな」
その言葉に、場の誰も返すことができなかった。




