表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/103

第33章:危険な森へ ―武器の素材探し―

 レイたちは鍛冶師の老人――名をグラムといった――の案内で工房へと向かった。

 岩山の奥にあるその工房は、炉の熱気と金属の匂いに包まれ、壁には無数の剣や斧、鎧が飾られている。どれも実用性と美しさを兼ね備えた逸品ばかりで、思わずセラとミナは感嘆の声を上げた。


「わぁ……こんなにたくさん……」

「すごいね! どれも強そう!」


 だが、レイの目は別のものに奪われていた。

 工房の奥、布に覆われた台座の上に、一振りの未完成の剣が置かれていたのだ。刃はまだ打ちきられていないが、不思議と圧倒的な存在感を放っている。


「……これが?」

 レイが視線を向けると、グラムが口元を歪めた。


「ああ、それはわしが作ろうとしていた傑作じゃ。おぬしに与えるにふさわしい一振りになる……だがな」


 そこで言葉を切り、グラムは深いため息をついた。


「材料が足りんのだ」


「材料?」


「そうだ。魔鋼石まこうせきという特殊な鉱石が必要でな。それが手に入らねば、この剣は完成せん」


 セラが小首をかしげた。

「魔鋼石って……どこにあるの?」


 グラムは渋い顔をして答える。

「この王国の近くに“黒獣の森”と呼ばれる森がある。そこにしか採れん。だが、あの森は危険じゃ。Bランクの冒険者でも命を落としかねん魔獣がうようよおる」


 その言葉にミナはごくりと唾をのんだ。

「Bランクって……そんなに強い人でも危ないの?」


 ここで補足しておこう。

 冒険者のランクは下からE・D・C・B・Aと分かれており、Eは駆け出し、Dは中堅、Cは一人前。そしてB以上となれば王国に名を知られる存在だ。

 とりわけAランクは世界に五人しかいない伝説級の冒険者たち。Bランクですらその頂に近い者たちだ。


 そんなBランクですら危うい森――それが黒獣の森。


「やめておいた方がいい」

 グラムは真剣な表情で首を振る。

「命を落としては元も子もない。わしは武器を作る者であって、若者の命を奪うつもりはないのだ」


 しかし、レイはその場で即答した。


「――俺が行きます」


 迷いのない声音だった。


「レイ……!」

 セラが不安げに彼を見上げる。

「そんな危ない森に行ったら……」


「セラ、心配してくれるのは嬉しい。でも俺が強い武器を手に入れなければ、これから先に待つ戦いに勝てない。魔王と戦うためには、どうしても必要なんだ」


 静かながら強い決意を秘めた言葉。

 セラは言い返せず、唇を噛んだ。


 するとミナが一歩前に出た。

「もちろん、私も行くよ」


「おいおい、無茶を言うな」グラムが慌てるが、ミナはきっぱり言い切る。

「仲間だもん。レイ一人に背負わせる気はない」


 セラも小さく頷いた。

「わたしも……一緒に行く。死ぬまでレイと共にいるって決めたもの」


 レイは一瞬黙り、やがて苦笑を漏らした。

「……ほんとに、君たちには敵わないな」


 こうして三人は黒獣の森へと向かうことを決意した。


 ◇


 森の入り口に立つと、空気はひどく淀んでいた。昼間だというのに薄暗く、奥からは獣の咆哮や羽ばたきの音が響いてくる。


「うわ……これ、ほんとにBランクでも危ないやつじゃない?」

 ミナが思わず尻込みする。


 しかしレイは剣を構え、静かに前を見据えた。

「行こう。ここを抜けて、必ず素材を手に入れる」


 セラとミナもそれぞれ杖とガントレットを構え、三人は一歩ずつ、黒獣の森の奥へと足を踏み入れていった――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ