第33章:危険な森へ ―武器の素材探し―
レイたちは鍛冶師の老人――名をグラムといった――の案内で工房へと向かった。
岩山の奥にあるその工房は、炉の熱気と金属の匂いに包まれ、壁には無数の剣や斧、鎧が飾られている。どれも実用性と美しさを兼ね備えた逸品ばかりで、思わずセラとミナは感嘆の声を上げた。
「わぁ……こんなにたくさん……」
「すごいね! どれも強そう!」
だが、レイの目は別のものに奪われていた。
工房の奥、布に覆われた台座の上に、一振りの未完成の剣が置かれていたのだ。刃はまだ打ちきられていないが、不思議と圧倒的な存在感を放っている。
「……これが?」
レイが視線を向けると、グラムが口元を歪めた。
「ああ、それはわしが作ろうとしていた傑作じゃ。おぬしに与えるにふさわしい一振りになる……だがな」
そこで言葉を切り、グラムは深いため息をついた。
「材料が足りんのだ」
「材料?」
「そうだ。魔鋼石という特殊な鉱石が必要でな。それが手に入らねば、この剣は完成せん」
セラが小首をかしげた。
「魔鋼石って……どこにあるの?」
グラムは渋い顔をして答える。
「この王国の近くに“黒獣の森”と呼ばれる森がある。そこにしか採れん。だが、あの森は危険じゃ。Bランクの冒険者でも命を落としかねん魔獣がうようよおる」
その言葉にミナはごくりと唾をのんだ。
「Bランクって……そんなに強い人でも危ないの?」
ここで補足しておこう。
冒険者のランクは下からE・D・C・B・Aと分かれており、Eは駆け出し、Dは中堅、Cは一人前。そしてB以上となれば王国に名を知られる存在だ。
とりわけAランクは世界に五人しかいない伝説級の冒険者たち。Bランクですらその頂に近い者たちだ。
そんなBランクですら危うい森――それが黒獣の森。
「やめておいた方がいい」
グラムは真剣な表情で首を振る。
「命を落としては元も子もない。わしは武器を作る者であって、若者の命を奪うつもりはないのだ」
しかし、レイはその場で即答した。
「――俺が行きます」
迷いのない声音だった。
「レイ……!」
セラが不安げに彼を見上げる。
「そんな危ない森に行ったら……」
「セラ、心配してくれるのは嬉しい。でも俺が強い武器を手に入れなければ、これから先に待つ戦いに勝てない。魔王と戦うためには、どうしても必要なんだ」
静かながら強い決意を秘めた言葉。
セラは言い返せず、唇を噛んだ。
するとミナが一歩前に出た。
「もちろん、私も行くよ」
「おいおい、無茶を言うな」グラムが慌てるが、ミナはきっぱり言い切る。
「仲間だもん。レイ一人に背負わせる気はない」
セラも小さく頷いた。
「わたしも……一緒に行く。死ぬまでレイと共にいるって決めたもの」
レイは一瞬黙り、やがて苦笑を漏らした。
「……ほんとに、君たちには敵わないな」
こうして三人は黒獣の森へと向かうことを決意した。
◇
森の入り口に立つと、空気はひどく淀んでいた。昼間だというのに薄暗く、奥からは獣の咆哮や羽ばたきの音が響いてくる。
「うわ……これ、ほんとにBランクでも危ないやつじゃない?」
ミナが思わず尻込みする。
しかしレイは剣を構え、静かに前を見据えた。
「行こう。ここを抜けて、必ず素材を手に入れる」
セラとミナもそれぞれ杖とガントレットを構え、三人は一歩ずつ、黒獣の森の奥へと足を踏み入れていった――。




