第32章:ドワーフの国と伝説の鍛冶師
魔王城へと歩き続けて数日。
険しい山道を越え、川を渡りながら進んでいた三人は、ひと息ついたときにミナがぽつりと口を開いた。
「……ねえ、私たち、この格好で魔王を倒すの?」
彼女は自分の体を見下ろしながら、情けないような顔をする。
確かに今の彼らの装備は、冒険を始めたばかりの新米のようなものばかり。レイの剣は量産品、セラの杖も初級魔導士向け、ミナのガントレットに至っては訓練用の代物だ。
「……言われてみれば、そうだな」
レイは頭をかきながら苦笑した。
「これじゃ、いざというときに壊れちまう。……よし、武器を揃えるしかないな」
「どこで?」とセラが首を傾げる。
「決まってるだろ。――ドワーフの国だ」
その言葉に、ミナの目がきらりと光る。ドワーフ族は鍛冶に優れた種族であり、彼らの作る武具はどの国よりも頑丈で強力だと知られている。
◇
山を抜け、谷を渡り、岩をくり抜いた大きな門をくぐると、そこがドワーフ王国だった。
城壁のように連なる岩肌には無数の窓や扉があり、国全体が巨大な鉱山都市のようになっている。
道を歩けば金槌の音が響き渡り、武具を抱えた戦士や職人が行き交っていた。
「すごい……これ全部、鍛冶の音なんだ」
セラは目を輝かせ、ミナも「テンション上がってきた!」と拳を握る。
三人はそれぞれ武器屋に足を運び、品定めを始めた。
セラは魔力の通りがよい木材を使った杖を手に取り、試しに詠唱すると、光が柔らかく杖の先端に集まる。
「これ、すごい……魔力の流れが自然で、まるで体の一部みたい」
彼女の顔には久々に心からの笑みが浮かんでいた。
一方のミナは重厚なガントレットを手にし、拳を軽く振る。
「……軽いのに丈夫! これなら全力で殴れる!」
小柄な彼女に合わせた装備が見つかったようで、すっかり夢中になっていた。
だが、レイは違った。
ずらりと並ぶ剣を手に取り、刃を確かめても――どれも「決定的な何か」が足りない。
「……悪くない。悪くはないんだが……」
どの剣も立派ではあるが、胸の奥が高鳴るような感覚がない。
レイは結局、後で探すことにして、二人に任せた。
「じゃあ次は服も見に行きたいな」
「そうね。今の格好じゃ、防御も心もとないし」
そう言ってセラとミナは並んで仕立て屋に入っていった。
レイが一人で待っていると――外から人々の悲鳴が響いた。
「な、なんだ!?」
慌てて外に飛び出すと、武装した盗賊団が通りを荒らし、住民を脅している姿が目に入る。
盗賊たちの狙いは明らかだった。街の奥にいる伝説級の鍛冶師を捕らえようとしていたのだ。
「見つけたぞ! ジジイを出せ!」
粗野な声と共に、盗賊が老人の腕をつかもうとする。
――その瞬間。
「やめろっ!」
鋭い声と共にレイが割って入り、盗賊の腕を切り払った。
予想外の抵抗に盗賊たちは一瞬ひるむ。だがすぐに武器を構え、数人がレイに襲い掛かる。
「ふっ!」
レイは剣を振るい、盗賊の攻撃を的確に弾き返した。流れるような動きに圧倒された盗賊たちは、やがて悲鳴を上げて逃げ去っていく。
残された老人は腰を抜かしていたが、レイが手を差し伸べると、感謝の言葉を口にした。
「た、助かった……恩に着る」
「怪我はありませんか?」
「おぬし、ただ者ではないな。……名を聞いても?」
「レイです」
そう名乗ると、老人は目を見開き、口元に笑みを浮かべた。
「ほう……ならば礼をさせてもらおう。代わりに、わしが武器を作ってやる」
「えっ……!?」
レイの目が輝いた。鍛冶師は伝説とまで言われる腕前を持つ老人。そんな人物に直々に武器を作ってもらえるなど、冒険者にとっては夢のような話だ。
ちょうどそのとき、セラとミナが新しい服を抱えて戻ってきた。
「レイ!? 何があったの?」
「少し盗賊が暴れてただけだ。大丈夫、もう片づけた」
二人に簡単に状況を説明すると、レイは鍛冶師の老人と共に歩き出す。
「これからわしの工房に来るがよい。最高の一振りを作ってやろう」
こうして三人は伝説の鍛冶師の家を訪れることになった。




