第31章:結婚と旅立ち
「け、結婚式……ですって?」
長の突然の言葉に、レイは思わず耳を疑った。
セラは真っ赤な顔で固まり、ミナは「え、えぇぇ!?」と大きな声を上げた。
「ちょ、ちょっと待ってください! 俺とセラは……その、まだそういう……」
慌てて否定するレイ。だが長はまったく耳を貸さない。
「セラは我が誇り高き娘、そしてお前は森を救った英雄だ。ならばこれ以上ない組み合わせだろう。森の民として、祝いを挙げるのは当然のこと」
「いやいや、そういう話じゃなくてですね……」
レイが抵抗しようとするも、長は都合の悪い言葉をまるで聞こえないかのように無視する。
周囲のエルフたちも「姫様がようやく……」「英雄殿との婚礼か……」と勝手に盛り上がり始め、話はどんどん進んでいった。
――そして昼。
村の広場には花や布が飾られ、エルフたちが集まっていた。見事な祭壇が設えられ、二人の結婚式が本当に始まってしまったのである。
「なんでこうなった……」
式服に着替えさせられたレイは、状況が理解できず半ば呆然と立ち尽くしていた。
一方のセラは真っ赤な顔をしながらも、どこか嬉しそうに微笑んでいる。
式は厳かに進み、祝福の歌と共に二人は誓いの言葉を交わした。
村中が拍手と歓声で包まれ、夜まで宴は続いた。
◇
やっと式が終わり、部屋に戻ったレイは大きく息を吐いた。
「……もう疲れた。なんで俺、結婚式挙げてんだよ」
布団に倒れ込みながら、現実感のない出来事に頭を抱える。
そんなとき――
ノックの音と共に、ドアが静かに開いた。
「……レイ、起きてる?」
現れたのは、純白の衣装を着たままのセラだった。
「セラ!? な、なんで……」
レイは思わず飛び起きる。心臓が異常なほどに早鐘を打っていた。
セラは恥ずかしそうに視線を逸らしながら、ぽつりと言った。
「……昔から、ずっとレイのことが好きだったの」
その言葉に、レイは固まった。
(……え、これテンプレじゃないか? なんで俺がこんなラブコメみたいな状況に……!?)
頭の中で混乱しつつも、セラの真剣な眼差しに目を逸らすことができなかった。
「でも……俺とセラは、従者と主っていう関係だったんじゃないのか?」
レイは慎重に言葉を選ぶ。
するとセラは小さく首を振り、笑顔を浮かべた。
「私はただの従者じゃない。あなたのそばにいたいって、ずっと思ってきたの。レイがどんな道を進んでも……死ぬまで一緒にいるって」
その言葉には迷いがなく、ただひたすらに真っ直ぐだった。
レイの胸に熱いものが広がり、思わず息を飲む。
「……セラ、お前ってやつは……」
その夜、セラはレイの部屋に残り、同じベッドで眠ることになった。
レイは布団の端に縮こまり、緊張で全く眠れない。
一方セラは安らかな寝顔を見せ、幸せそうに寄り添っていた。
◇
翌朝。
村の入り口には長や多くのエルフたちが見送りに集まっていた。
「ここまで世話になりました」
レイは深く頭を下げる。長は満足そうに頷き、セラを見つめた。
「セラ、どうか幸せに。……レイ、我が娘を頼んだぞ」
その横で、昨日まで敵意をむき出しにしていたセラの兄が一歩前に出た。
険しい表情のまま、しかし力強い声で言う。
「お前を……信用する。妹を頼んだ」
レイは驚きつつも頷いた。
「必ず守ります」
セラとミナを伴い、レイは再び旅路へと足を踏み出した。
村を後にする背中を、エルフたちはいつまでも見送っていた。
「きっと……また帰ってきますよ」
レイは振り返り、そう言葉を残した。
――そして三人の旅が、再び始まった。




