第217章:死んだはずの人
部屋の空気が止まる。
「……は?」
最初に声を出したのはミナだった。
◆
「今なんて?」
ミナの目が細くなる。
「レイが死んだ?」
◆
エリシアはレイから目を離せない。
顔色が悪い。
本気で混乱している。
「見間違いじゃない……」
小さく震える声。
「その顔も、魔力の感じも……同じ」
◆
レイ自身が一番困惑していた。
「えっと……」
「俺、ここ初めてなんだけど」
◆
エリシアが首を振る。
「いいえ」
「あなたは来た」
強い口調。
「三ヶ月前」
「黒い侵食事件の時」
◆
ユーノが即反応する。
「待て」
「三ヶ月前のルミナス異常は小規模だったはずだ」
「記録にも“未解決の空間歪曲”程度しか――」
◆
エリシアが苦い顔をする。
「……隠蔽されたんです」
◆
沈黙。
◆
「上層部が情報を止めた」
「死者多数」
「地下封鎖」
「異常存在確認」
◆
レイの頭がズキッと痛む。
◆
一瞬。
暗い地下。
赤い光。
自分の声。
『先に行け!!』
誰かを庇う感覚。
そして――
強烈な痛み。
◆
「っ……!」
レイが頭を押さえる。
◆
セラが支える。
「また記憶?」
◆
レイは荒い呼吸のまま頷く。
「地下……」
「誰か守ろうとしてた」
◆
エリシアの表情が固まる。
「……やっぱり」
◆
「あなたは私達を助けた」
静かな声。
◆
「地下最深部で」
「“門”が開きかけた時」
「一人で残った」
◆
ミナの顔色が変わる。
「……何それ」
◆
「私達は撤退命令を受けた」
「でも」
エリシアが拳を握る。
「あなたは言った」
少し苦しそうに。
その言葉を思い出す。
◆
『ここは俺が止める』
『だから先に行け』
◆
部屋が静まり返る。
◆
レイの胸がざわつく。
知らない。
はずなのに。
その言葉。
妙に自分らしい気がした。
◆
「それで……?」
ミナが低い声で聞く。
◆
エリシアは俯く。
「爆発が起きた」
「地下が崩落」
「誰も生きてないと思った」
◆
沈黙。
◆
「……でも」
エリシアがレイを見る。
「どうして」
「生きてるの?」
◆
誰も答えられない。
レイ本人ですら。
◆
その時。
ポケットの中。
黒い結晶が――
ドクン。
強く脈打った。
◆
パキッ。
ヒビがさらに広がる。
黒い光。
文字。
◆
『嘘を見抜け』
◆
全員が止まる。
「……嘘?」
マリーナが呟く。
◆
次の瞬間。
部屋の外。
遠くで警鐘。
ギィィィィン!!
『緊急警報!!』
『地下旧水路にて侵食反応急増!!』
『市民は避難してください!』
◆
アイリスの顔色が変わる。
「……早すぎる」
◆
レイの頭に。
一瞬だけ映像。
地下。
巨大な扉。
そして。
血だらけの自分。
◆
『……第零層に行くな』
自分の声。
なのに。
最後だけ。
誰か別の声が混ざる。
◆
『――もう一人の“レイ”がいる』
◆
空気が凍った。




