第214章:東への道
王都を出発して二日。
魔導馬車は東方街道を進んでいた。
窓の外には広い草原。
時折、小さな村が見える。
平和――に見える。
でも。
空気のどこかが、妙だった。
◆
「静かすぎない?」
ミナが窓の外を見ながら言う。
「盗賊も魔物も少ない」
◆
ガルドが腕を組む。
「確かに」
「辺境街道なら普通もっと出る」
◆
ユーノが地図を見る。
「周辺生態反応も減少」
「……逃げてる?」
◆
嫌な沈黙。
◆
レイは窓側でぼんやりしていた。
身体は回復してきた。
でも。
頭の奥に、ずっと違和感がある。
◆
知らない景色。
知らない仲間。
なのに。
時々。
妙に安心する。
◆
ミナが隣に座る。
「ぼーっとしてる」
「考え事」
「記憶?」
◆
レイは少し悩む。
「……それもある」
「でも」
窓の外を見る。
「なんか変な感じする」
◆
「変?」
「この道」
少し眉をひそめる。
「初めてのはずなのに」
「知ってる気がする」
◆
ミナの表情が少し変わる。
「……記憶?」
「分かんない」
◆
その時。
馬車が急停止した。
ガタンッ!!
「うわっ!?」
マリーナが転びそうになる。
◆
外から声。
「止まれ!」
「誰だ!?」
◆
カレンが即座に立つ。
「敵?」
◆
外へ出る。
すると。
街道の真ん中に、一人の男が立っていた。
黒い外套。
顔は見えない。
◆
空気が止まる。
◆
レイの心臓が強く跳ねた。
(……知ってる)
◆
男がゆっくり顔を上げる。
あの声。
「久しぶりだな」
◆
ミナが剣を抜く。
「誰?」
◆
男は答えない。
ただ。
レイを見る。
真っ直ぐ。
◆
「……まだ覚えてないか」
少しだけ苦そうな声。
◆
レイが前へ出る。
「あなたは」
「誰なんですか」
◆
男は少し黙る。
そして。
低く言った。
「……敵でいた方が楽なんだがな」
◆
次の瞬間。
空間が歪む。
黒い霧。
そして――
無数の侵食体。
◆
「っ!」
カレンが構える。
「戦闘!」
◆
だが男は静かだった。
「時間がない」
レイへ向けて。
「ルミナスへ急げ」
「“門”が開けば終わる」
◆
ユーノが目を見開く。
「何を知ってる!?」
◆
男は答えない。
ただ。
一瞬だけ。
レイへ何かを投げた。
◆
小さな黒い結晶。
◆
「……それを持ってろ」
「いずれ分かる」
◆
次の瞬間。
侵食体が襲いかかる。
そして男は。
霧の中へ消えた。
◆
残されたのは。
不気味な静寂。
そして。
レイの手の中に残る――
黒い結晶。
◆
触れた瞬間。
頭にノイズが走る。
知らない記憶。
誰かの声。
『……お前だけは忘れるな』
◆
レイが頭を押さえる。
「っ……!」
◆
結晶が、淡く光った。




