第211章:空白の物語
医療室。
外はまだ雨。
静かな夜。
だが部屋の空気だけは、どこか落ち着かなかった。
◆
レイはベッドに座りながら、目の前の面々を見る。
知らない顔。
知らない世界。
でも――
不思議と嫌な感じはしない。
◆
「……つまり」
レイがゆっくり言う。
「俺、異世界転生したあとに色々あって」
「全部忘れたってこと?」
◆
ユーノが頷く。
「簡潔に言えばそう」
「雑すぎ!」
マリーナがツッコむ。
「もっと段階あるでしょ!」
◆
ミナが椅子を前へ引く。
「じゃ、最初から」
腕を組む。
少し考えて。
「まず」
レイを見る。
「君、転生してすぐから割と変だった」
「え?」
「いや褒めてない」
◆
「学院に入って」
「色々事件起きて」
「魔物暴走とか」
「変な組織とか」
「北の森で死にかけたり」
◆
レイが真顔になる。
「……情報量」
「まだ序盤」
「序盤!?」
◆
セラが少し優しく補足する。
「あなた、普通の人じゃなかったの」
「観測者っていう異常存在に干渉できた」
「普通の魔法じゃ対処できない相手」
◆
「で」
ミナが指差す。
「それを君がどうにかしてた」
「俺が?」
「うん」
「めちゃくちゃ無茶しながら」
◆
マリーナが勢いよく頷く。
「ほんとに危なかったんだよ!?」
「何回倒れたと思ってるの!」
「えぇ……」
レイが若干引く。
(そんな無茶するタイプだったっけ俺……)
◆
アイリスが静かに言う。
「北の森では」
「あなたが闇を払った」
「その代償で、長く眠った」
◆
ミナが少し視線を逸らす。
「……四週間」
小さく言う。
「ずっと起きなかった」
◆
レイが固まる。
「四週間?」
「そんなに?」
◆
「で」
ユーノが話を続ける。
「王都来て」
「地下で異常発生」
「君、新しい剣作った」
「剣?」
◆
セラが棚から一本の布包みを持ってくる。
「これ」
ゆっくり開く。
そこにあるのは――
蒼と黒が混ざった、不思議な剣。
◆
レイが目を見開く。
「……これ」
知らない。
はずなのに。
なぜか。
胸がざわつく。
◆
無意識に触れる。
瞬間。
ピシッ。
淡く蒼い光。
剣が、反応した。
◆
全員が止まる。
ミナが小さく笑う。
「覚えてなくても反応するんだ」
◆
レイは戸惑う。
「俺……これ使ってたの?」
「めちゃくちゃ」
カレンが腕を組みながら言う。
「化け物じみた使い方でね」
「褒めてる?」
「半分くらい」
◆
アイリスが静かにレイを見る。
「でも最後」
「あなた、全部使った」
「身体壊しかけながら」
◆
ミナが少し怒った顔。
「腹までやられたし」
「……え?」
反射的に腹を見る。
包帯。
傷跡。
「マジか」
◆
沈黙。
レイは少し考える。
そして。
「……なんか」
小さく言う。
「ごめん」
◆
「なんで謝るの?」
ミナが即返す。
「生きて戻っただけで十分」
少しだけ。
本当に少しだけ笑う。
「まぁ記憶飛んだのは腹立つけど」
◆
部屋に少し笑いが戻る。
でも。
空白は、確かにある。
◆
その時。
レイの頭に。
一瞬だけ映像。
黒い空間。
蒼い剣。
誰かの声。
『……まだ終わってない』
◆
「っ……」
レイが頭を押さえる。
「レイ!?」
◆
ほんの一瞬。
脳裏に浮かんだ。
知らないはずなのに。
自分の記憶みたいな感覚。
そして。
窓の外。
誰かがこちらを見ている気配がした。




