第207章:傷を負って
ドクン。
地下最深部から響く脈動。
空気が重い。
いや――
地下そのものが軋んでいる。
◆
ユーノが魔導端末を見ながら顔を青くする。
「反応値が意味不明だ……」
「今までの十倍以上」
「十倍?」
マリーナが引きつる。
「それ、笑えないやつでは?」
「全然笑えない」
◆
ミナが剣を抜き直す。
「でも行くしかないでしょ」
視線は前。
暗い通路の奥。
◆
レイも歩き出そうとする。
だが。
ピシッ。
「っ……!」
右腕に走る痛み。
光のヒビ。
少しだけ広がっている。
◆
アイリスが即止める。
「待って」
「その状態で前出るの危険」
「分かってる」
レイは苦笑する。
「でも今休んでる余裕ない」
◆
カレンが少し苛立った声を出す。
「無茶するタイプね、あんた」
「初対面でバレた」
「隠す気ないでしょ」
◆
ミナが横へ来る。
レイの肩を軽く叩く。
「一人でやろうとしない」
「前はあたし」
「無理そうなら引っ張る」
少しだけ真面目な顔。
「倒れる前に言って」
◆
レイは少し黙る。
そして。
「……ありがと」
「珍しく素直」
「うるさい」
ミナが笑う。
◆
一行は前進を始める。
地下深部。
古い遺跡構造。
壁には謎の文字。
壊れた魔法陣。
不自然な静けさ。
◆
そのとき。
空間が歪む。
ボコッ。
横壁から侵食体が飛び出す。
「左!」
◆
ミナが即反応。
ザンッ!!
切り裂く。
だが後ろ。
もう一体。
「っ!」
◆
レイが動く。
剣を呼び出す。
蒼い光。
だが――
少し遅い。
◆
ザシュッ!!
「っ……!」
腕を掠める。
血。
浅い。
でも確実に入った。
◆
「レイ!」
ミナが振り向く。
カレンが即座に追撃。
侵食体を切断。
◆
「平気」
レイは傷を押さえる。
だが呼吸が少し乱れる。
剣の維持も重い。
◆
アイリスが顔を曇らせる。
「侵食傷かもしれない」
「普通の傷じゃない可能性ある」
「最悪」
レイが小さく息を吐く。
◆
だが止まらない。
さらに前へ。
◆
道が狭くなる。
崩れた石橋。
その向こう。
黒い霧。
脈動。
◆
ガルドが眉をひそめる。
「……なんか嫌な音するな」
◆
ドクン。
ドクン。
まるで心臓。
巨大な何かが呼吸している。
◆
レイの耳にだけ。
また声。
『……来るな』
低い。
深い。
前のとは違う。
もっと古い。
◆
レイが足を止める。
「……誰だ」
「え?」
ミナが見る。
「何か聞こえた?」
◆
レイが前を見る。
黒い霧の向こう。
何かがいる。
◆
『……壊れるぞ』
声。
警告。
でも敵意ではない。
◆
その瞬間。
黒霧が裂ける。
巨大な“門”が姿を現す。
異質。
現実に存在してはいけない形。
そして――
その前に。
人影。
黒い外套。
顔は見えない。
◆
全員が止まる。
カレンが剣を構える。
「……誰」
◆
その人物が、ゆっくり顔を上げる。
そして。
真っ直ぐレイを見る。
「……遅かったな」
◆
レイだけが凍る。
その声。
どこか――
自分に似ていた。




