第195章:白に侵される森
出発の日。
学院の空は、まだ完全には元に戻っていなかった。
薄く残る歪み。
見上げれば、どこか“向こう側”を感じる空。
「……気持ち悪いね」
ミナがぼそっと言う。
「慣れない方がいいやつだな」
レイも短く返す。
◆
学院正門。
遠征隊は最小構成。
レイ、ミナ、セラ、マリーナ、リオン、リュシエル。
そして補給用の簡易装備。
「今回の目的は二つ」
リュシエルが淡々と説明する。
「北方で確認された最大規模の歪みの調査」
「及び、侵入体の排除」
「シンプルだね」
マリーナが苦笑する。
「その分、危険です」
セラが付け加える。
「観測波の強度は、学院以上」
ミナが笑う。
「いいじゃん」
剣を担ぐ。
「強い方が燃える」
◆
数日後。
北方領域。
空気が変わる。
冷たい。
鋭い。
そして――
静かすぎる。
「……音がない」
レイが呟く。
鳥の声も、風のざわめきも弱い。
「生態系が乱れてる」
セラが周囲を見回す。
そして一歩、森へ入る。
◆
そこは“白い森”だった。
雪ではない。
木々が、白く変色している。
葉も幹も、色を失っている。
「なにこれ……」
マリーナが触れようとする。
「待って」
セラが止める。
「魔力反応がおかしい」
ミナが鼻をひくつかせる。
「……匂いも変」
「どんな?」
「空っぽの匂い」
レイが眉をひそめる。
「それ、あいつらと同じか」
「近い」
ミナは頷く。
◆
さらに奥へ進む。
白が濃くなる。
地面まで色が抜け始める。
そのとき。
リオンが止まる。
「……前方」
全員が構える。
白い木の間。
何かが立っている。
人影。
だが動かない。
「……生きてる?」
マリーナが小さく言う。
近づく。
そして全員が息を呑む。
それは――
白く変色した人間だった。
目は閉じている。
だが立っている。
「これ……」
セラの声が震える。
「生体反応が……ある」
「でも動かない」
ミナが眉をひそめる。
その瞬間。
カチッ。
小さな音。
レイの背筋が凍る。
「下がれ!」
叫ぶ。
次の瞬間。
その“人”が目を開いた。
真っ白な瞳。
そして――
ドン!!
異常な速度で襲いかかる。
「っ!」
ミナが反応。
ガキィン!!
剣で受け止める。
「重っ!」
だが止める。
リオンが横から斬る。
ザン!!
だが血は出ない。
白い粒子が散る。
「これ……」
セラが叫ぶ。
「人じゃない!」
◆
そのとき。
森の奥。
パキッ。
パキッ。
同じ音。
次々と。
マリーナが青ざめる。
「……ねぇ」
「嫌な予感するんだけど」
白い木々の間。
無数の影が立ち上がる。
全部――
“元は人だったもの”。
ミナが苦笑する。
「……ゾンビ系?」
「違う」
レイが低く言う。
「侵食されてる」
白い存在に。
◆
その瞬間。
森の奥から、強い圧。
空気が変わる。
セラが息を呑む。
「これ……中心に何かいる」
リュシエルも頷く。
「歪みの核です」
レイが拳を握る。
「まずはここ突破だ」
ミナが笑う。
「了解」
剣を構える。
「じゃあ」
一歩踏み出す。
「白い森、攻略開始だね」
無数の白い存在が、こちらへ動き出す。




