第194章:目覚めの代償
暗闇。
何もない空間。
音も、光も、境界も曖昧な場所。
レイは、そこに立っていた。
「……またここか」
呟く声すら、どこか遠い。
夢。
だが前とは違う。
“誰かに呼ばれた”感覚ではない。
これは――
自分が沈んでいる場所。
◆
足元に、波紋が広がる。
黒でも白でもない、透明な揺らぎ。
その中に、何かが映る。
学院。
戦い。
ミナたち。
そして――
空に開いた亀裂。
「……やりすぎたか」
小さく苦笑する。
あの瞬間。
確かに届いた。
干渉。
いや、それ以上の何か。
だがその代償が、これだ。
「動けない、か」
身体の感覚が薄い。
意識だけが浮かんでいる。
◆
そのとき。
波紋の奥。
“何か”が動いた。
レイの視線が鋭くなる。
「……来たな」
ゆっくりと現れる影。
形は曖昧。
だが分かる。
あの“観測側”の気配。
しかし――
前より近い。
はっきりしている。
『……安定……確認』
ノイズ混じりの声。
だが、以前より明確だ。
レイは眉をひそめる。
「ここまで来れるのか」
『……違う』
影が揺れる。
『……ここは……接続点……』
「接続点?」
理解が追いつかない。
だが直感で分かる。
ここは夢ではない。
境界の中間地点。
◆
『……干渉者』
その言葉に、レイはため息をつく。
「その呼び方、好きじゃないな」
『……適合度……上昇……』
影が近づく。
圧はない。
だが――
深い。
底が見えない。
「……で?」
レイは動かない。
「何しに来た」
影は、わずかに揺れる。
『……観測……ではない』
その言葉に、レイの目が細くなる。
『……提案……』
「は?」
予想外だった。
◆
『……干渉者は……不安定……』
『……このままでは……崩壊……』
レイは自分の手を見る。
確かに、輪郭が少し曖昧だ。
「……それが代償か」
『……そう』
短い肯定。
『……だから……選択……』
またその言葉。
レイは苦笑する。
「最近そればっかだな」
影が続ける。
『……我々に近づくか』
『……このまま消耗するか』
沈黙。
レイは少し考え――
鼻で笑った。
「断る」
即答だった。
影がわずかに揺れる。
『……理由……』
「決まってるだろ」
レイは顔を上げる。
「そっち側に行く気はない」
影が沈黙する。
◆
次の瞬間。
空間が揺れた。
別の“何か”が近づく気配。
さっきの影とは違う。
もっと荒い。
もっと敵意に近い。
『……別個体……接近……』
最初の影が言う。
「仲間じゃないのか」
『……違う……』
その瞬間。
空間が裂ける。
黒い歪み。
そこから、別の影が現れる。
より歪で、鋭い。
『……排除……対象……』
レイを見た瞬間、明確な敵意。
「は?」
レイが呟く。
「派閥マジであるのかよ」
最初の影が言う。
『……時間切れ……』
『……現実へ戻れ……』
「勝手に決めるな」
だが身体が引っ張られる。
現実へ。
意識が浮上する。
最後に、影の声。
『……次は……選べ……』
◆
目が開く。
白い天井。
医療室。
視界がぼやける。
「……レイ?」
ミナの声。
すぐ近く。
「……起きた?」
レイはゆっくり瞬きをする。
「……ああ」
身体が重い。
だが動く。
ミナがほっと息を吐く。
「よかった……マジで」
「どれくらい寝てた」
「二日」
「長いな」
苦笑。
だがそのとき。
レイの手が、わずかに歪む。
ミナが気づく。
「……今の何?」
「……さあな」
レイも見つめる。
魔力じゃない。
もっと深い何か。
セラとリュシエルも入ってくる。
「目覚めたのね」
「体調は?」
「最悪じゃない」
だが――
セラが真剣な顔で言う。
「でも」
「あなた、前と同じじゃない」
沈黙。
レイも分かっている。
あの感覚。
あの空間。
あの存在。
「……ああ」
小さく頷く。
「ちょっとだけな」
そしてベッドから起き上がる。
「次、行くんだろ」
ミナが笑う。
「もちろん」
拳を軽く合わせる。
だがその裏で。
レイの中で、何かが静かに変わっていた。
干渉者としての力。
そして――
その代償。




